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東南アジアの文化セクターをリードする次世代の社会起業家の姿 ――プリム・プルーン インタビュー

Interview / Asia Hundreds

文化や芸術で国のイメージを変える

―カンボジアン・リビング・アーツの活動についてお話を伺いたいのですが、その前にカンボジアン・リビング・アーツが設立された経緯についてお話しいただけますか?

プリム:まず、カンボジアン・リビング・アーツがスタートした背景にはカンボジアの内戦があったことを説明する必要があります。カンボジアの内戦を引き起こしたクメール・ルージュは、カンボジアを国際的に孤立させ、田畑を耕すシンプルな生活様式を復興する思想を持っていました。そして、文化や宗教、海外からの影響を嫌い、国の文化のルーツを絶やすために多くの芸術家を虐殺しました。その結果、私たちは自分たちの文化を失いかける経験をしました。
そして、国の再生が始まると、カンボジアン・リビング・アーツの活動が重要となりました。私たちの伝統文化は口承で伝えられてきたからです。例えば、音楽は耳で聞いて、演奏することで受け継がれています。つまり、楽譜や記譜は使いません。舞踊も同様です。当時、年老いた人と若い人たちはいましたが、その間の世代の人たちを内戦で失いました。そこで、伝統文化を師範から若い世代に継承する活動が始まりました。それが1998年です。
一方で、設立者や理事会のメンバーはこの活動を一時的なプロジェクトで終わらせたくないと考え、2001年に2020年を見据えたビジョンを作成しました。そのビジョンでは、文化や芸術がカンボジアの象徴となる未来のイメージを描いています。世界の多くの人々が持つカンボジアのイメージは内戦ですが、そのイメージを変えるという挑戦に、私自身もとても興味を持ったのを覚えています。

  インタビューの様子の写真

写真:鈴木穣蔵

―文化や芸術で国のイメージを変えるというのは大きな挑戦ですね。

プリム:はい。ただ、私たちの活動は20年前にはとても重要でしたが、そのビジョンを実現するためには新しい世代に目を向ける必要があると考えています。若い世代が自分たちの文化を理解することはとても重要です。しかし、文化は生きているので、その保存や継承だけでは十分でないと思います。もしも、文化を型にはめてしまったら、それ以上に文化は発展できず、社会も発展できません。つまり、伝統を基礎とすると同時に、現代の文脈の中で創造の機会を与えるべきだと考えています。
現在、私は若い世代の人々に創造の機会を提供する試みをしていますが、それと同時に文化の経済モデルを模索しています。芸術家になると経済的に貧しい生活を送らなければならないと思って欲しくないからです。芸術家であることに尊厳を持ち、誇りに感じてもらうためにも、人々が価値を認め、高く評価する事業をつくりたいと考えています。

文化や芸術の発展を促す次世代のリーダー

―それでは、カンボジアン・リビング・アーツの事業についてお話しいただけますでしょうか。

プリム:カンボジアン・リビング・アーツでは、「リビング・アーツ・フェローズ・プログラム」というリーダーシップ育成事業に力を入れています。

写真1  写真2
リビング・アーツ・フェローズ・プログラムの様子 (c)Hermione Brooks

プリム:文化セクターの持続性を考えた場合、芸術家だけでは作品を創作していくことができません。つまり、アーツ・マネージャーが必要だということです。国が発展し、その基盤は形成されてきましたが、その基盤を引き継ぐ次世代のリーダーを育成することが必要だと考えました。
なぜ、そのようなことを考えたかというと、ニューヨークで「シーズン・オブ・カンボジア」というフェスティバルの準備をしていたときに、「なぜ、ひとりでプロジェクトを進めているのか」と質問する人がいたからです。私は「ひとりでプロジェクトをしたいのではなく、リーダーシップが必要な事業に適当な若い世代がいないからです」と答えましたが、その後、とても考えさせられました。そして、今、若い世代に投資をすれば、数年後には彼らが同じような事業を推進してくれるはずだという答えにたどり着き、カンボジアの文化セクターにおける未来のリーダーの種を蒔くことを始めました。

―具体的にはどのような内容のプログラムなのでしょうか。

プリム:カンボジアにはアーツ・マネジメントのカリキュラムがありません。また、若い世代のリーダーの多くは組織をマネジメントする立場にあります。彼らが必要とし、私が重要だと考えたことは、何かを学ぶクラスやトレーニングではなく、アイデアを交換するプラットフォームをつくることです。そのため、このプログラムでは、参加者同士のネットワークや海外とのネットワークの拡大を重視しています。
例えば、インドやマレーシアなど、アジアの国からシニア・レベルのリーダーをメンターとして招きフェローズ・ワークショップをしています。文化を国単位で考えるのではなく、近隣諸国を含めた地域の立場から考え、グローバルな視点で大局的に見ることが重要です。それが文化の発展を促す唯一の方法だと考えています。

  インタビューの様子の写真

写真:鈴木穣蔵

―国単位ではなく、近隣諸国を含む地域という考え方にとても興味を持ちました。

プリム:今後、このリーダーシップ・プログラムは近隣諸国を含む地域のプログラムへと発展し、将来、メコン川流域国のリーダーのハブになると期待しています。そして、芸術的なスキルを学ぶだけでなく、文化や芸術が社会にどのようなインパクトを与えられるのかを考えてもらいたいと思っています。
ご存知だと思いますが、ザルツブルク・グローバル・セミナーでは、未来の文化を牽引する世界の500人の若手イノベーターを10年間でつなぐプログラム、「ヤング・カルチュラル・イノベーター」を推進しています。世界に10のハブをつくる計画で、毎年、約50人の若手イノベーターをそのハブのひとつに派遣し、未来のリーダーシップについてアイデアを共有しています。私もそのセミナーに招待いただいたのですが、カンボジアをそのハブのひとつにしたいと提案しました。それはカンボジア人のためにカンボジアをハブにしたいからではなく、タイやベトナム、ミャンマー、ラオス、そして、カンボジアを含むメコン川流域国のためのハブにしたいと考えたからです。私たちは同じようなルーツを持ち、同じような状況にあります。カンボジアン・リビング・アーツのリーダーシップ・プログラムはザルツブルク・グローバル・セミナーとつながることで、カンボジアからその周辺地域へ、そして、グローバルな展開になっていくと思います。

アジアという地域に求められること

―カンボジアを含む近隣諸国や、アジアに着目されているということで、2016年1月にプノンペンで開催されたANCER(Asia-Pacific Network Cultural Education and Research)についてもお話しいただけますか?

プリム:ANCERはアジア太平洋地域のアーツ・マネジメントや文化政策のアイデアを共有するネットワークで、2012年に設立しました。2016年には3回目の国際会議を開催し、カンボジアン・リビング・アーツは主催および企画を担当しています。プノンペンのANCERでは、若手のアーツ・マネージャーや研究者だけでなく、台湾のマーガレット・シューのようなシニア・レベルのアーツ・マネージャーや研究者も参加したことが印象的でした。海外の文化機関で働くスタッフ、例えば、国際交流基金やブリティッシュ・カウンシルのジャカルタ支局、アジアン・カルチュラル・カウンシルのスタッフも参加しました。

写真1  写真2
Asia-Pacific Network for Cultural Education and Research (ANCER)  の様子 © Dara Rin

―どのようなトピックが議論されたのでしょうか。

プリム:まず、マーガレット・シューがアジアという地域にもっと目を向けるべきではないかと提案しました。そして、「私たち、アジアの人々はいつも欧米に目を向けていて、ニューヨークやパリで勉強したいと思い、ロンドンで公演をしたいと考えます。しかし、クアラルンプールやバンコク、ジャカルタではどうでしょうか」というように問題提起しました。
私もそれは十分ではないと思います。東アジア域内での交流は活性化していて、また、東南アジア域内での交流も活性化しています。しかし、東アジアと東南アジアの交流という点ではどうでしょうか。そこで、私たちは東アジアと東南アジアの交流の可能性について話し合い、その課題は何か、また、その交流を促すために何が必要かと議論しました。その結果、アジアという地域を対象とするモビリティ・グラントをつくるというアイデアが生まれました。それはアジアの誰もがアクセスできるグラントです。多額な助成金が必要なのではなく、2,000米ドルや3,000米ドルがあれば十分で、それでアジア全体の交流や協働を促すことができると思います。
私たちの生活はインターネットやメールに依存していますが、直接会い、話し合うことで、とてもすばらしく、意義深い永年のつながりをつくることができます。例えば、国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2016 (TPAM 2016)で、私はメルボルンから来ているステファン・アームストロングと出会い、議論を深めることができました。そして、来月、カンボジアにお招きする約束をしました。人と人が出会うことはとても重要で、価値のあることです。TPAMの成果もそうだと思いますが、それは次の10年のためになる成果があると思います。