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文化遺産をまもる~ジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーションの事例から ――アン・ミン・チー講演(Innovative City Forum 2016)

Presentation / Asia Hundreds

ユネスコ世界遺産 ジョージタウン

こんにちは。ジョージタウン世界遺産公社でゼネラル・マネージャーをしておりますアン・ミン・チーと申します。今日は、ジョージタウンにおける私たちの取り組みと、文化遺産を保護するための革新的な活動についてお話しします。今日紹介するケーススタディ―のひとつは、ジョージタウンのユネスコ世界遺産登録を記念して私たちが毎年開催しているイベントであるジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーションです *1

*1 ジョージタウンの中心地で最古の地区は、2008年7月7日にユネスコ世界遺産に登録されました。遺産の正式名称は、『マラッカとジョージタウン、マラッカ海峡の古都群』です。

ジョージタウン世界遺産公社 ゼネラル・マネージャー アン・ミン・チー

ジョージタウンはペナン島の北東端に位置し、街の面積は約259ヘクタール(東京・上野公園の約5倍)とそれほど大きくはありませんが、非常にユニークな街です。私たちは、ユネスコが定める「顕著な普遍的価値」のうちの3つの基準に着目して保護活動に取り組んでおりますが、ジョージタウンとマラッカは次のように評価されています。

基準II:マラッカとジョージタウンは、マレー文化、中国文化およびインド文化と、500年近く続いた植民地時代の3宗主国による貿易と交流により作り出された、東アジアおよび東南アジアにおける多文化的商業都市のひときわ優れた例である。どちらも建築様式、都市構造、技術および歴史に残る芸術にその影響が見られる。ふたつの街は共に、異なる発展段階と長期間にわたる継続的な変化を示しており、互いに補完し合っている。

基準III:マラッカとジョージタウンは、多文化遺産とアジアの伝統およびヨーロッパの各宗主国の影響の生ける証拠である。この有形・無形の多文化的遺産は、多種多様な異なる宗教の宗教建築、エスニック街、多言語、礼拝や宗教的な祭り、ダンス、衣装、芸術、音楽、食べ物および日常生活に表れている。

基準IV:マラッカとジョージタウンには、東アジアや南アジアでは他に例を見ないユニークな建築、文化および街並みを作り出した多文化混交の影響が色濃く表れている。特に、希少なショップハウス〔店舗併用住宅〕やタウンハウスにその特徴が表れている。これらの建物には、それぞれの建築の様式や発展段階を見ることができる。その中には、オランダやポルトガルによる植民地時代に起源があるものもある。

引用元:ユネスコのウェブサイト『マラッカとジョージタウン、マラッカ海峡の古都群』(英語のみ)

ジョージタウン世界遺産公社 ゼネラル・マネージャー アン・ミン・チー

有形・無形の文化遺産の共存

私のオフィスは州政府と地域コミュニティのサポートを受けており、ジョージタウンの有形・無形の文化遺産の保存と保護を使命としています。建造物や史跡、つまり有形遺産については、保存と管理計画の概要を示したジョージタウン特別地区計画(George Town's Special Area Plan *2 )があり、私たちはこれに基づいて活動しています。一方、無形文化遺産は、地域コミュニティやグループ、個人が、自分たちの文化遺産の一部であると認識している社会文化的な慣習、描写、表現、知識および技能と定義することができます。正直なところ、これらの無形文化遺産の保護にはかなりの努力を要しますが、私たちの活動は、文化遺産が確実に世代から世代へ受け継がれ、同時に地域コミュニティやグループによって、それらが再現されるようにすることを目的としています。こうしたジョージタウンの精神を保護することは、既に述べたように、頼るべき手引きがないので、大変難しい取り組みです。

*2 1976年、都市・農村計画法(172法)の規定に基づいて、実施のための詳細な企画提案、ガイドラインおよび管理戦略を含む世界遺産ジョージタウンの特別地区計画が州当局により発令されました。

私たちは、このポストカードを使用して人々に無形文化遺産に関する知識を持ってもらう活動を2015年に開始しました。教育と地域へのエンパワーメントは、私たちの戦略の一部であり、実地調査やリサーチおよび情報の文書化といった他の施策も行っています。その中で私が一番好きなのは、楽しくて実現可能な双方向の活動であり、地域コミュニティに参加してもらうことができるジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーションです。

ジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーション

ジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーションは、ジョージタウンの世界遺産登録を祝うために2009年にスタートしました。ジョージタウンとはどんな存在か、そして、そこで生活し働く地域コミュニティの人たちは、街をどのように捉え理解しているのか、私たちに共通するアイデンティティを見いだす機会として、このイベントを活用しています。ジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーションでは、毎年、ある1つのテーマに基づいてプログラムや活動内容を決定しています。2013年のテーマは「色、文化、伝統」、2014年は「生きている遺産」、2015年は「きちんと食べる」でした。2016年のテーマは、伝統的なスポーツやゲームに関することで、スローガンは「mai main!」でした。日本語に訳すと、「遊びに来てね [let's play]」です。11種類の伝統的なスポーツに着目し、23種類の伝統的なゲームを紹介します。私たちが共有する思い出を、入門クラス、公開シンポジウム、ストリート・フェスティバル、ワークショップ、実演そして屋外ゲームを通じて楽しく、双方向かつ非排他的な方法でお見せします。私たちは、これらのゲームを異なる民族に属し、社会的、宗教的、言語的バックグラウンドが異なる複数の地域コミュニティからの提案や情報提供に基づいて計画します。これらの地域コミュニティこそ、ジョージタウンの文化遺産の所有者です。しかしながら、文化遺産に関する彼らの解釈を文書化し、双方向なものにするためには橋渡しをする仕組みが必要です。ジョージタウン世界遺産公社は、まさにその役割を果たしています。

この写真で私が着ているピンク色のTシャツは、今年のセレブレーションのために特別に作られたものです。私の一番好きな色ではありませんが、プロジェクトを担当するキュレーターがトレンドになると言うので受け入れなければなりませんでした。ありがたいことにというか、当然ボランティアの人たちは皆このTシャツをとても気に入っているようでした。そして、私たちはジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーション2016の期間中3日間にわたってジョージタウンの街をピンクに染めました。

すべてのイベントには資金が必要ですが、このイベントを運営するにあたりペナン州政府から全面的な支援を受けられることは大変幸運なことです。今年の年間予算は約1千万円です。これでイベント開催のためのすべての経費と120日の準備期間を通して懸命に働く43名のプロジェクトスタッフの給与などすべての費用を賄います。キュレーター、デザイナー、制作スタッフ、オフィサー、プロモーター、ボランティアのトレーナーから成るグループがあり、ほとんどの人たちが地域コミュニティと上手に関わり、交流することができます。そういったコミュニケーションによって、私たちは地域コミュニティの人たちが幼いころに親しんでいたゲームの種類など文化遺産を特定し、実地調査することができるのです。また、地域の自治会のサポートによって、講師や中心的な人物を特定することもできました。このこともまた、私たちの保護活動を持続可能なものにする上で重要な地域コミュニティへのエンパワーメントの取り組みなのです。

Mai Main!:伝統的なスポーツやゲームの復活

既にお話しした通り、2016年7月7日~9日の期間中に、私たちは合計23種類の伝統的なゲームのワークショップ、6つの伝統的スポーツの実演、公開シンポジウム1回、4つの入門クラスを運営しました。セレブレーションは公式オープニングセレモニーで開幕し、州知事を含む州政府の高官が開催を祝して列席し、私たちの取り組みについて振り返りました。また、私たちはこの機会に地域自治会の貢献に対して謝意を表し、記念の盾を贈りました。さらに、メディアプログラムのシリーズも開始しました。

翌日以降、セレブレーションの期間中には、当公社のスタッフ、地域コミュニティの人々、ボランティアによる双方向の討論が行われました。これが3日間のプログラムです。私たちはヨガ、太極拳、ニライカラッキ・シランバン[南インドから伝わった武術Nillaikalakki Silambam]、そして シラット・カピ[東南アジアの伝統武術Silat Kapi]の講師を招き、それらのスポーツの入門クラスのレッスンを実施しました。受講者たちは3時間の集中レッスンで各スポーツの基本的な動きを体験しました。

また、私たちは地域コミュニティの協力者のサポートにより、ジョージタウンで広く行われていた様々な伝統的スポーツやゲームに関する23組のゲームカード *3 を作成しました。これらのゲームカードは、地域コミュニティの協力、口述による記録、戦略的な計画作成によって生まれたものです。これらのゲームのほとんどは、ジョージタウンの子供たちにとって今やかなり異質なものなので、私たちはテクノロジーに頼らず、イノベーティブな方法でイベントを運営することに力を尽くしました。何ごとも工夫次第です。

*3 Gasing(独楽)、Guli(ビー玉)、 Batu Tujuh(七つの石)、積み木取り、 Tudung Tin(ボトルキャップ)、Congkak(チョンカゲーム)、動物チェス、ピンボール、なわとび、石けり遊び、ハンカチ落としなど。

ゲームカードは、街頭イベントにやって来た7千人以上の参加者に無料で配られました。参加者の多くはジョージタウンや近隣地域に住む家族連れで、この地域に通勤している人たちもいました。さらに、参加者には若い人達も年配の人達もいるので、チェスのような低エネルギーのゲームと、走り回ってたくさん汗をかく高エネルギーのゲームの両方を用意しました。

イベント期間中、私たちは世界遺産であるジョージタウンを歩行者専用の遊び場に一変させました。それぞれのゲーム会場は動きやすいように配置され、様々な所有者が無料で敷地を開放し、後援してくれました。これらの活動はすべて全面的な支援を受けて行われるものであり、私たちはチケットの販売は行っていないということを申し上げたいと思います。出来るだけ多くの人たちに参加してほしいのです。
今年は、運よくとても良い天気に恵まれました。しかし、雨が降ったとしても、「代案はありません。決行します。ジョージタウンのユニークな景色を楽しみましょう。」と言っていたと思います。

これらの伝統的なゲームを紹介する上で私たちが直面した物理的な困難のひとつは、いまでは市販品を買い求めることができないということでした。そこで私たちは自由な発想で考えることが必要になり、手に入る材料で新しく作ることを始めました。セレブレーションの期間中に改めて紹介したゲームのひとつが、「動物チェス」です。私の子供時代には人気のあるゲームでしたが、いまではもう製造されていません。私たちのチームは、リサイクルしたペットボトルのふたでゲームの駒を再現し、ゲーム盤を印刷する必要がありました。このゲームはどの年代の参加者にも好評でした。

私たちが参加を促すためにとったもうひとつの方法は、「よくできましたシール」を配ることです。ゲーム会場を訪れた参加者には、激励の印としてステッカーが与えられました。それが、セレブレーションの期間中に用意されたゲームをすべて制覇しようという気を参加者に起こさせたのです。

セレブレーションは3日間で終わりではないということも言わなければなりません。私たちは持っているリソースとセレブレーションからの収穫を引き続き活用します。例えば、ゲームカードはタミル語、中国語、マレー語、英語の4か国語に翻訳され、教師や講師、地域コミュニティの人々がジョージタウン世界遺産公社のウェブサイトからダウンロードできるようになっています。地域コミュニティの人々が引き続きゲームやスポーツをメンバーや来訪者に紹介し、教師が教材として使用し、講師が自分の教室の生徒たちのために利用できるよう、これらの素材を広く一般に公開しました。

また、私たちは、プロジェクトチームのメンバーやボランティアの人たちが持ち帰るのはピンクのTシャツに留まらないように努力しています。私たちは、地域コミュニティとの継続的、双方向的、共同的な取り組みを通じて、若者たちが地域コミュニティとの関わりや地域コミュニティによる協力、文化遺産の内容とその重要性について理解を深め、ヘリテージ・セレブレーションを記憶に留めてくれることを望んでいます。彼ら若い世代が引き続き地域の文化遺産を保護し、彼らなりの方法で活用できるようになってくれればよいと考えています。

私たちは、皆が昔の遊びに参加してもらえるよう、人によっては懐かしい思い出を再体験するよう促します。そうすることで、私たちのアイデンティティを定義し形成している、単純でありながらも重要なものを理解し、内なる自分を目覚めさせることが出来れば良いと考えています。このように継続的に取り組むことによってのみ、ジョージタウンの精神は生き続けるのです。やはり、この街は生きた博物館なのです。

皆さんのスケジュールの2017年7月7日、8日、9日に来年のジョージタウン・ヘリテージ・セレブレーションの予定を入れていただくことをお願いいたしまして、私のプレゼンテーションを終えたいと思います。私たちは引き続き地域コミュニティと連携し、2017年のヘリテージ・セレブレーションの新しいテーマを発表する予定です *4 。皆さんもジョージタウンの文化遺産を保護する私たちの取り組みに、ぜひ参加してください。

*4 2017年1月現在、今年のヘリテージ・セレブレーションのテーマは書き言葉や話し言葉などの、ジョージタウンに受け継がれてきた言い伝えや表現に着目する予定です。

Ang Ming Chee

Plates: Courtesy of the Author