ASIA center | JAPAN FOUNDATION

国際交流基金アジアセンターは、アジアの人々の間に共感や
共生の心を育むため、様々な分野で文化交流事業を実施しています。

MENU

チィー フュー シン――ミャンマー商業映画の今:ビジネスと政治の変わり目で

Interview / Asia Hundreds

多彩なジャンルの映画監督として

藤岡朝子(以下、藤岡):私がアジア・フェローシップとして訪問したヤンゴンの映画館では、娯楽映画が量産され公開されている様子が印象的でした。あなたも多彩なジャンルの映画を、長編7本、ビデオ映画40本以上も撮っていらっしゃいますね。他の映画制作者と違う自分らしさ、監督としての個性はどんな点ですか。

チィー フュー シン(以下、チィー):私はどのような映画作品を撮るにしても、映像がきれいであるという点を心がけています。恋愛ものであれ、コメディであれ、ドラマであれ、私の画面はきれいだ、美しい、と観客から言われます。それは観客の目線からです。

藤岡:青春ドラマなど若い人向けの映画が多いようですが。

チィー:多くはやはり若い人をターゲットにして製作しています。年配の方向けは2本だけです。

藤岡:ご自分の映画で一番好きな作品は、どれですか?

チィー:『雨夜の霧夢』(2009)が一番好きです。戦争が終わってすぐの時代を背景にしている映画で、恋愛ものですが、男性の主人公に3つの特徴があります。記憶喪失で過去を忘れている、学生である、そして芸術家であるということです。音楽も非常にいいので、これが私の一番好きな作品です。
今、同じような時代ものを撮ろうとすると大変です。あの時代を再現するセットを作るのは時間もかかり難しいはずです。ミャンマーでは通常、セットは作らず、あるものを利用して撮影することが多いのですが、当時あったような家屋は、今では皆レストランになっていて撮影を許可してくれません。

藤岡:観客にはどう受け止められましたか?

チィー:芸術的な面から言えば、非常に成功した映画だと思いますが、商業的には失敗作です。こういう映画が好きな観客は、ミャンマーでは非常に少ないのです。ミャンマーの映画ファンの多くは、コメディや若者の恋愛ものが好きなのです。
私が監督した7本の映画のなかでは利益の出なかった作品ですが、業界では、非常に記念碑的な作品として、同業者から称賛をいただきました。出演した主演俳優と助演女優はミャンマーのアカデミー賞を受賞しましたので、私はこの映画を撮った後、知名度が上がりました。ミャンマーでは映画監督の契約は売上げとは関係なく、一本あたりの監督料となっていて、映画が商業的に成功したか失敗したかは、自分の報酬とは関係がありません。しかしミャンマーでは映画館がヤンゴン、マンダレーといった大都市にしかなく、他の多くの都市には映画館は存在しません。そのために映画の興行収入は非常に少ないというのが現実です。

藤岡:なるほど。1970年代には年間100本以上の映画が作られていたミャンマーだそうですが、今はむしろ、映画館よりも、ビデオ(VCDやDVD)で発表される作品を見ている人のほうが多いのかもしれませんね。監督はどちらも撮っておられますが、映画とビデオ作品ではどう違うのですか?

チィー:映画は、撮影にかかる日数をビデオ作品より長く取れますので、カメラアングル、カメラワーク、そして照明に気を遣って撮ることにしています。それから脚本に焦点を当てたいので、原作になる小説の選び方を重視しています。映画だけが、アカデミー賞の対象になります。ビデオ映画は娯楽ですので、気楽に見られるような作品を心がけています。

藤岡:最近の映画ビジネスはどういう状況ですか?

チィー:2016年、映画のチケット販売枚数は非常に増えました。ですが残念なことに、コメディ映画ばかりです。カメラがデジタルになり、撮影が手早く容易になってきて、今では、実はビデオで発表されるものより、映画の製作本数の方が多くなってきています。
ミャンマーの観客は、待ち合わせて映画を見に行く、娯楽のために映画館に行くことが多いので、特に若い人がグループで見るとなると、どうしてもコメディ映画が多くなります。だからドラマや恋愛モノは、商業的に成功しないことが多い。つまり、映画の製作本数は増えているけれど、映画の質としてはだんだん悪くなってきている。いい作品はなかなか生まれなくなってきている。儲かる映画を簡単に撮って商業的に成功させる、ということが増えています。

チィー フュー シン[Kyi Phyu Shin]

ビデオ市場もひどい状況です。レンタルビデオ屋さんが、棚に10枚並べるのに、製作会社から3枚だけ買って、それをダビングしてしまうのです。海賊版の厳格な取り締まりがないため、ビデオ作品のプロデューサーはなかなか収益が上がらないという状況になっています。
だから現在、映画の本数は増えていますが、長期的に見ると状況はいいとは言いきれません。観客はコメディ映画を見たがっているということで、今、コメディが多く製作されていますが、こればかりがずっと続くと、観客は離れるでしょう。そうなると映画館で映画を見てくれない、というような状況がまた生まれかねません。

新しいテレビの形:テレビ映画の参入

チィー:最近のニュースとしては、今月末あるいは来月中(2017年2月末か3月中)に、ミャンマーに新しく5つのテレビチャンネルが認可されるということです。これによりさらに多くの視聴者にテレビ放送を届けることができるようになります。日本でいう連続ドラマ、2時間ドラマ、映画、それからその他の娯楽番組を無料で放送する予定で、視聴者数と広告収入の増加が予想されるこの5つのチャンネルには予算がふんだんにあるので、テレビ用に製作される映画にも期待が高まっています。
ただ、そうなると今ビデオ作品や映画を作っているプロデューサーは窮地に立たされると思います。私たち映画監督も、その5つのチャンネルのための職員になってしまうか、もしくは依存する状況になるかもしれません。日本から帰国後、早速放送局に打ち合わせに行かなければなりません。

藤岡:テレビ映画の参入は、これまでより自由に質の高いものを製作するチャンスだ、と考えられますか。

チィー:自分たち監督としては、この状況は非常にいいチャンスだと思いますが、これまで映画を愛して作ってきたプロデューサーにとっては大変な状況になると思います。今回、初めて映画という世界に参入してくるテレビ関係者には資金がありますので。

藤岡:日本でテレビ放映が始まった頃も、映画人たちがどんどん起用されました。彼らは、面白い実験的なことができる現場として、テレビで大暴れしました。映画の黄金時代はテレビに凌駕された、という歴史で語られがちですが、実はテレビやインターネットなど、新しいメディアの黎明期は、予算にとらわれない創造的な実験場の誕生でもありました。ミャンマーでも、これからの展開に期待しています。