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カンヌ受賞監督メンドーサが語る、母国フィリピン映画の黄金期

Interview / 第28回東京国際映画祭

自然災害や困難を何度もくぐり抜けてきた、日本人とフィリピン人の意外な共通点

―まずは10日間の長い日本滞在、おつかれさまでした。今回はじめて日本で大々的に作品が紹介されたわけですが、いかがでしたでしょうか?

メンドーサ:TIFFでフィリピン映画が特集され、自分の作品をはじめ、注目すべきフィリピン映画が日本や世界の観客に向けて上映されたのは大変光栄なことです。「CROSSCUT ASIA」のような特集上映は、フィリピンの映画監督にとっても、新しいチャンスを得ることができる良いプラットフォームだと思いますし、作品に皆さんが興味を持ってくださったことも嬉しく思っています。

映画 フォスター・チャイルド のスチル

『フォスター・チャイルド』(2007) (c)Seiko Films

 ―トークセッションでのお話を伺ったり、作品を拝見していると、映画を通じて、フィリピンの情勢や文化を伝えたいという思いが強く感じられました。

メンドーサ:映画はエンターテインメントだけでなく、国や社会を映し出すものだと信じているからです。フィリピンの文化を知ってもらう機会は滅多にないと思うので、映画を通して皆さんが新たな知識を得たり、ユニークな体験をしていただけたら嬉しいと思っています。そして、フィリピンの映画監督たちが、世界的にもっと知られることも願っています。

―監督自身、外国の映画、たとえば日本の映画を観る機会はおありでしょうか? お好きな日本人監督はいらっしゃいますか?

メンドーサ:黒澤明は、アジア映画の重要な柱の一人だと思います。彼はアジアの映画監督にチャンスを与えただけではなく、アジアの映画制作に、ある基準を確立した存在だと思います。また、メインストリームであるハリウッドの表現手法からも離れて、日本固有の文化と伝統をうまく表現しています。

インタビュー中のメンドーサ氏の写真1

ブリランテ・メンドーサ監督 (c)2015 TIFF

 ―フィリピン全体で、日本映画の印象はどうですか?

メンドーサ:ここ10年ほど、フィリピンの人たちは特に日本のジャンル映画(アクション、ホラーなど、スタイルが分類できる映画)を好んで観ています。ポップカルチャーの視点で言えば、『リング』(中田秀夫監督)に登場するキャラクター、貞子は、ほとんどのフィリピン人が知っている。マニラでは毎年日本映画祭が開催されていて、映画関係者や学生たちが招かれ、日本映画を学んでいる状況もあります。アジアの国はそれぞれが多様な文化を持ちながらも、家族の絆の強さや年長者に対する尊敬、伝統や固有の慣習、お米文化など、共通している部分もあるので、日本映画にフィリピン人が共感するのは驚くことではないと思います。

―フィリピンと日本において、特に似ていると感じられる部分はありますか?

メンドーサ:あらゆる困難から立ち直り、くぐり抜ける力を持っているところではないでしょうか。現状を受け入れる能力、苦しい状況であってもゼロからまた築き上げようとする意志は、フィリピン人が人生に立ち向かう際の、特有の性質でもあると思います。

―お互いに台風や地震、津波など、強大な自然災害を何度も経験している国ですね。

メンドーサ:ただ、日本と違って、85パーセントのフィリピン人は貧しい暮らしをしています。それと同時に、いい暮らしをしている15パーセントの人たちも描くことで、フィリピンの「本当の良さと美しさ」が伝えられるかもしれないとも思っています。私が描きたいものはフィリピンにおけるスラム街やマニラ市の景観ではなく、フィリピン人の心と、社会階級を超える伝統と文化の美しさなのです。