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カンヌ受賞監督メンドーサが語る、母国フィリピン映画の黄金期

Interview / 第28回東京国際映画祭

徹底したリサーチを経て、ドキュメンタリーではなく、あえてオリジナルな物語を描き出す、メンドーサ監督の映画術

―メンドーサ監督は、以前は広告業界で仕事をされていて、45歳で映画監督デビューされたそうですが、そのきっかけは何だったんでしょうか?

メンドーサ:大学卒業後、広告業界で美術デザイナーとして働いていたのですが、そのなかでさまざまな映画の美術セットを手がけるうち、いつかは自分で映画を撮りたいと思うようになりました。当時、いろんな映画監督と一緒に仕事をさせていただいたことは、ものすごく貴重な学びの機会でした。あの頃に学んだことすべてが自分の頭のなかでリメイクされ、いまの映画に活かされていると思います。

映画 わな 被災地に生きる のスチル

『罠(わな)~被災地に生きる』(2015)

 ―子宝に恵まれない夫婦の第2夫人探しを描いた『汝が子宮』(2012)、2013年に起きたヨランダ台風の被災地を舞台とした『罠(わな)~被災地に生きる』(2015)など、実際に起きた出来事をベースに物語を作られることが多いそうですが、どのようにリサーチされているのでしょうか?

メンドーサ:物語を作るためにあちこち旅して回るのは、長くて疲れる時間でもありますが、リサーチはもっとも好きなプロセスで、制作の半分くらいを費やしています。『汝が子宮』のときは、設定に近い対象を見つけるため、フィリピン中に足を運びました。そして、南フィリピン出身で、現在はマニラでホームレス生活をしている方に出会うことができました。

映画 汝が子宮 のスチル

『汝が子宮』(2012) (c)CENTER STAGE PRODUCTIONS CO.

―リサーチからスタートされ、そこから物語のヒントを得ていくスタイルなんですね。 

メンドーサ:そうですね。『罠(わな)~被災地に生きる』のリサーチの際は、災害から生き残った人たちと一緒に被災地を訪れることで、その体験がよりよく理解できるようになりました。物語を作るとき、まず自分自身がその物語のなかに存在するように心がけています。

―現場を詳細にリサーチした後、そこでドキュメンタリー映画を撮るのではなく、あえてオリジナルな物語を立ち上げていくのが監督の映画の特徴ですが、主人公が街を歩くシーン1つをとっても、カメラや演技の存在を感じさせないほどリアルな描写が印象的です。リサーチの際に気を付けていることや、演出方法として好んでいる手法はありますか?

メンドーサ:街全体をエキストラとして捉えるようにしています。撮影前にキャスト、スタッフで街のそこかしこを訪問して、慣れ親しむようにしているんです。その地域全体を巻き込んだプロジェクトにすることで、自然体に撮れるようになる。映画館を舞台にした『サービス』では、映画館という建物自体もキャストの一人として捉えています。空間や街、地域の人々を巻き込むことで物語が生きてくると思うんです。作品では俳優たちだけでなく、地元の人たちもたくさん参加してくれましたし、『罠(わな)~被災地に生きる』では、実際に台風ヨランダを経験して生き延びた方も出演しています。

映画 サービス のスチル

『サービス』(2008)

 ―キャストの自然な演技を含め、劇映画でここまでドキュメンタリーの雰囲気を感じられるのは、やはりメンドーサ監督ならではのマジックだと感じました。

メンドーサ:私の作品は、社会問題や社会的リアリズムを通してフィリピン人の物語を描写していることから、多くの場合「ドキュドラマ」にカテゴライズされます。たとえば『罠(わな)~被災地に生きる』では、台風の生存者を演じてもらうために経験の多い役者をキャスティングしていますが、役者には、被災地の様子や生存者が苦しい状況に耐えるリアルな姿を間近に見てもらっています。ドキュメンタリー風のストーリーテリングを通して、すべてのシーンを生き生きと見せるのは、作品を作る上でとても重視している部分です。

―俳優に台本を渡さず、そのシーンで起きる状況と必要なワードのみを説明して撮影するスタイルを取られていると、女優のルビー・ルイスさんがおっしゃっていました。「暗記した台詞に頼らず、創造性に制約のない自由な表現ができる」「俳優たちの化学反応によって成り立つ非常に効果的な方法」だと。俳優は台詞も自分で考え、リハーサルも一切ないそうですが。

メンドーサ:リハーサルをしないことで、なにかが起きたときのリアクションをそのまま撮影することができ、非常に生々しい演技を捉えることができます。俳優は台本を読み、解釈して演じることに慣れているわけですが、私が俳優に期待したいのは、物語のキャラクターを演じるだけでなく、そのシーンの「状況を経験して反応すること」。その状況に身を置いて自分をオープンにすることで映画のシーンに溶け込んでいく。それによって観客も映画的な経験ができると思います。

―長回しによる手持ちカメラの臨場感も、よりドキュメンタリータッチの演出を増長しているように感じました。

メンドーサ:ただ、カメラワークに関してはあまり綿密に計画しているわけではないんです。形式よりも内容が大切であって、「どう撮るか」に重きが置かれるべきではないと思っています。まず、自分自身が作品に没頭することが大切。単にロケハンをするのではなく、リサーチを念入りにして、「自分がその環境に身を置く」ことこそが重要なんです。