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ハムディ・ファバス×小澤勇介――インドネシアと日本 ストリートダンスがつなぐ縁

Interview / Asia Hundreds

アマチュア層の拡大と理想のダンス支援

ファバス:小澤さんの話を聞いて、インドネシアのストリートダンスにも、多くの可能性を感じました。時間はかかるかもしれませんが、今日のお話を確実に活かしていきたいと思っています。インドネシアの今後の経済成長を考えると、ストリートダンスシーンにもいろいろな可能性があると思うので、まずは今日のお話をインドネシアのダンス関係者に伝えたい。そして一緒にクリエイティブ産業を大きくしていくために、どうしたらいいかを考えたいです。僕は海外、特に日本から学びたい気持ちがありますし、今日伺ったEnスタジオがどのように始まり、いかにブランドを確立させたかというお話は非常に参考になりました。

小杉:ファバスさんのお話にあったブランドの確立という点で、小澤さんが意識されたことなどはあるのでしょうか。

小澤:スタジオの名前の通り「縁」、つまり人との繋がりを一番に大切にするということですね。ダンスで人と繋がった延長線上に、今のEnダンススタジオが成り立っていると思います。ですからスタジオのロゴも「人との繋がりが年々太くなるように」という思いを込めて、木の年輪を象ったものなのです。筆で描いたタッチにしたのは、日本人のあるべき姿を考えつつ、世界と繋がっていこうという思いを表現しています。

インタビューに答える小澤勇介さんの写真

小杉:繋がる先には東南アジアのストリートダンスシーンも含まれてくると思いますが、お二方がご覧になって、東南アジアのダンスシーンにはどんな印象をお持ちですか。

小澤:僕はフィリピン、マレーシア、インドネシア、そしてシンガポールを訪れた経験がありますが、東南アジアのダンサーには、身体能力の高さをいつも感じます。音楽やダンスに対する感覚が優れた人が多いイメージです。たとえばアメリカで活躍するダンサーには、フィリピン出身の人が多くいますから。ただ、経済面や情報面の問題で、ダンスコミュニティを広げるのが難しい面があるのかもしれません。そういう意味ではファバスさんが展開する、インターネット上にダンスのコミュニティを作るやり方には可能性を感じますし、インドネシアのダンスシーンも今後、発展していくのではないかと思います。

ファバス:そこは僕自身も非常に期待しています。僕たちがインドネシアのストリートダンスシーンの第一世代として活動する中で、次第にスタジオなどの環境なども整ってきました。そして僕は、ダンスはオープンマインドなもので、開いた状態でいることが大事だと思っています。ですから自分はテレビやコンテストにも積極的に出て、他のアーティストとも仕事をしてきました。ビヨンセの振付を担当するLuam Kyやレコードレーベルとの仕事もしています。また僕の友人にP.H.A.T.というグループのメンバーがいるのですが、彼らはアメリカを始め、海外から講師を招くことにも積極的です。将来的にはEnスタジオと私たちでなにかを一緒に企画して繋がりを作れたらと思いますし、Enスタジオと繋がることで日本とインドネシアだけでなく、東南アジア全体とも繋がっていきたいです。

小澤:そう言っていただけるとうれしいですね。Enはダンススタジオなので、スタジオを軸に、所属する講師が世界で活躍できるような導線を作りたいです。彼らに世界で活躍してもらい、いいと思った世界中の人が、受講者として集まるのが理想です。そうなることでストリートダンスシーンの中で渋谷が世界への情報発信地となり、トレンドを作れたらと思います。

小杉:プロ志向の人だけではなく、アマチュアで楽しみたい人を増やすことで、全体のボトムアップを図る考え方もあると思いますが、アマチュア層への対応という点で、お二方が考えていることはありますか。

小澤:Enダンススタジオではダンス講師の派遣も行っており、群馬では幼稚園、小学校、中学校に指導者を派遣していますし、学校の先生へのダンスの教え方のトレーニングも行っています。そこがまず、ストリートダンスへの入口になればということです。また、フィットネスジムに来る層には、趣味として音楽やダンスが好きな人が多いので、おおまかな分け方ではありますが、プロ志向の方はEnのスタジオ、趣味として楽しみたい人はフィットネスジム内のスタジオ、というように、それぞれが求めるレッスンを提供できるようにしています。

ファバス:アマチュア人口を増やすことは、僕も大いに興味があります。そのためには、いかに一般層からの注目を集め、魅力を感じてもらえるかが勝負です。僕も試行錯誤していますが、一つ気づいたのが、ダンス映画が公開されると新しい受講者が増えるということです。彼らの中にはアマチュア志向の人もプロ志向の人もいるので、双方の層を増やせるわけです。ですから海外のダンス映画のみに頼るのではなく、インドネシア発のダンス映画を作るためのプロデュースを開始しています。ブームを起こしてトレンドとして認知されることで、多くの人に「ダンスは魅力的なもの」と感じてもらえる流れを作りたいのです。

小杉:また、文化事業には企業や行政からの支援が行われるケースもありますが、支援のあり方として、お二方が理想的だと感じるのはどのような方法でしょうか。

ファバス:先ほど言いました通り、ダンスにはスポーツ、教育としての側面があります。さらに学術、文化としての側面もあるわけです。ダンスに対する一般層の関心が高まっていますし、ストリートダンスを舞台化したものは、企業の社会貢献のコンテンツとして活用することが可能だと思います。ただ、そのためには、ダンサーが情熱を持ってダンスの可能性を見せることが大前提となります。その上で、ダンスは若い世代が健康的でクリエイティブな充実した人生を送るためのツールになり得る、という観点を持ちながら活動していきたいです。ただし、ダンスがただの経済活動として使われないよう、気をつけなければとも思います。

小澤:僕はダンス界にとって企業や行政からの支援は重要だと思いますし、連携して活動できればと思います。ただし、きちんとダンサーたちから評価されている演者を起用して、一般の人たちに訴求するものを展開することが必要だと思います。そうでなければ、実際にダンスに携わる層から支持を得ることは難しいですから。その点、国際交流基金アジアセンターと株式会社パルコで主催されているダンス・ダンス・アジア*6 には、実力のあるダンサーが起用されていますし、彼らが認められているから、海外からダンス・ダンス・アジアを観た受講者が集まる流れが生まれています。そういう意味では現段階でも理想は実現できていると思いますし、今後はまた別の角度から新しい提案をして、僕らも企業や行政と連携する機会に出会えればと思います。

*6 舞台芸術の「新しい表現手法」としてここ数年、高い関心が寄せられているストリートダンスをキーワードにしたパフォーミングアーツ作品を制作するプロジェクト。アジア域内の交流促進と新たな文化の創造を目指して、2014年にスタート。

ハムディ・ファバスさんと小澤勇介さんの写真

【2017年10月3日 En Dance Studio渋谷校 にて】

関連情報

DANCE DANCE ASIA―Crossing the Movements 公式Webサイト


聞き手:小杉 厚(こすぎ あつし)
ライター、編集者。舞台の公演パンフレットを中心に取材・編集に携わっている。
ダンス・ダンス・アジアでは、2016年よりインタビュー取材、公演パンフレット等広報物の編集を担当。

撮影:引地信彦