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宗重博之――日本とベトナムの舞台芸術交流に向けた挑戦

Interview / Asia Hundreds

日越共同制作に向けた取り組み

羽鳥:そうしてベトナムで1年過ごされて、今関わっていらっしゃるのは。

宗重:ハノイでは二つの国立劇団とのコラボレーション、ホーチミンでは民営劇団の動向を見ています。具体的には、3年ぐらいかけてハノイの二つの国立劇団と共同で作品を創作する計画です。

ベトナム青年劇場とのチェーホフ作品の共同制作

羽鳥:今、どういった提案をされている段階なのでしょうか。

宗重:一つは、ベトナム青年劇場*6 から、アントン・チェーホフの作品を一緒に作ってくれないかという依頼をいただいて、3年計画で企画しました。杉山剛志*7 が演出を担当します。1年目はベトナムの状況を把握するためにいろんな場所に行ってリサーチして、ワークショップをやって、台本作りから取りかかります。2年目から創作に取り掛かります。
去年の11月に、ハノイで行われたベトナム国際実験演劇祭に杉山君が演出した『かもめ』を持って参加したんですが、その『かもめ』を見たベトナム青年劇場のトップたちがチェーホフに関心を持ったのです。日本からも役者が加わって、ワークショップを重ねながら作ろう、というプロジェクトなんです。

*6 1978年に創立された国営の劇場。現在、ファム・チー・チュン氏が館長を務めている。2つの現代劇団と歌舞団の3部門を抱え、劇場は618席(改修後、現在は588席)。総従業員は約200名。

*7 壁なき演劇センター所属の演出家。ベトナム国際実験演劇祭2016で優秀演出家賞を受賞。

写真
ベトナム青年劇場の外観
Photo: 宗重博之

羽鳥:『かもめ』については、知ってはいるけど、読んではいるけど、って感じですか。

宗重:読んではいるけど、いざ上演となると腰が重かったり、それを演出する人がいなかったり、どうやっていいのかわからないという状況だと思います。ベトナムの演劇はだんだん下火になってきて若手も育たなくなるし、海外から置いてきぼりになるから、自分たちで変えよう、というのは彼らがずっと抱えている問題です。その糸口として、海外とのコラボレーションというところに、活路を見いだし、実践のなかで変えていこうという思いがあるでしょう。

羽鳥:どういう演劇をやるのか。演劇はどういう意味があるのか、必要なのかっていうことから、共有しながらでしょうか。

宗重:そうですね、PETAと一緒にやってきたことなんですが、お互いの演劇文化を見つめ合う中で、われわれは向こうの文化を知らなきゃいけないし、彼らも日本の文化を受け入れなきゃいけない。集団の必要性とか演劇の必要性を議論し合って20年ぐらいかかったんです。そういうのを経験しているので、国際コラボレーションは簡単じゃないというのは覚悟しています。
でも、20年もかけていられないので、せいぜいあと4、5年のうちに、基盤を作って、その後は若い人たちにどんどん譲っていかなきゃいけないと思っています。20年間分を5年間に凝縮して、ベトナムに住んでベトナム語も覚えてどんどん突き進む。情報やプロセスは公開しながらやっていきたいです。

羽鳥:そうですね、できた作品を見るというよりも、そのプロセスをぜひ共有していただきたいなと思います。

内観の写真
ベトナム青年劇場
Photo: 宗重博之

ドラマ劇場との共同制作—ブレヒトの教育劇への挑戦

宗重:もう一つあるのですが、ベトナムドラマ劇場*8 とは、アジアのなかでのベルトルト・ブレヒトの位置づけを考え、ブレヒトの教育劇を通して、演劇の制度や様式、劇作術を捉え直しながら、共同で創作しようというプロジェクトです。

*8 1952年に創立され、長い戦争に巻き込まれながらも、ベトナムの現代劇を支えてきた国営の劇場。180席の劇場を有し、従業員は約100名。館長はグエン・テー・ビン氏(現在はファム・アイン・トゥー氏)。

羽鳥:ブレヒトのほうも、どなたか杉山さんのような日本の演出家が入られるんですか。

宗重:いえ、今のところ私と向こうの演出家です。

羽鳥:それはかなり、何というか、力が必要というか。

宗重:そうですね。

羽鳥:ドラマ劇場の、何歳くらいの演出家の方なんですか。

宗重:50歳前半です。

羽鳥:若手というわけではなくて。

宗重:ドラマ劇場は若手の演出家を抱えていないんです。彼らにとって若手演出家の育成は急務です。

羽鳥:チェーホフよりお客さんにとってさらに取っつきにくいんじゃないかと思ってしまうんですけど。教育劇の、具体的にどれをやろうという話もされてるんですか。

宗重:候補は『イエスマン、ノーマン』*9 という作品です。イエスマンというのは、村のおきてに従って、山越えのときに病気になった者はそのまま谷に投げ落として行く。それに対して、ノーマンというパートでは、イエスマンとほぼ同じストーリーが反復されながらも、病気になった本人が谷に投げ込まれることを拒否し、一行と一緒に村に引き返すというものです。この作品を、お客さんではなくて、役者たちに投げかけて、彼らの意見を聞きながら進めたいと考えています。教育劇は演じている人たちが学ばなければならない。そして、それを見ている人たちも考える。この作品はコーラスの存在が重要です。演じられている場面に対して、コーラスが歌で状況を語ります。面白くするのがすごく大変だと思うんですが、退屈な舞台にしたら駄目で、惹きつけなきゃいけない。あまり生真面目にならず、いかに遊び心を持って取り組むかが課題です。

*9 ドイツの劇作家ブレヒトが、日本の謡曲「谷行」を翻案して1930年に書いた教育劇。

羽鳥:そちらはどれくらい時間かけて作られるのですか。

宗重:『イエスマン・ノーマン』は1年間かけて。

外観の写真
内観の写真
ベトナムドラマ劇場
Photo: 宗重博之