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国際交流基金アジアセンターは、アジアの人々の間に共感や
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人間と自然をつなぐ建築で、現代アジアの都市問題に向き合う――ヴォ・チョン・ギア講演(Innovative City Forum 2016)

Presentation / Asia Hundreds


ASIA HUNDREDS(アジア・ハンドレッズ)」は、国際交流基金アジアセンターの文化事業に参画するアーティストなどのプロフェッショナルを、インタビューや講演会を通して紹介するシリーズです。 文化・芸術のキーパーソンたちのことばを日英両言語で発信し、アジアの「いま」をアーカイブすることで、アジア域内における文化交流の更なる活性化を目指しています。

ベトナム、ホーチミン市の都市問題――人口過密・渋滞・緑の減少

こんにちは、ヴォ・チョン・ギアです。私は現在ベトナムで建築家として活動していますが、10年前まで日本で建築を勉強していました。最初に石川工業高等専門学校で、その後名古屋工業大学、東京大学の修士課程からそのまま博士課程の途中までおりました。そして、2006年にベトナムに戻り、事務所を設立してちょうど10年になります。本日は、ベトナムの都市の事情と、それを建築や都市計画によって、どのように解決するかについて、私自身の設計活動をご紹介しながら、お話ししたいと思います。

ヴォ・チョン・ギア、ICF2016「Greening the City」発表

ベトナムは、人口がほぼ日本と同じくらい、1億近く[2016年調べで9,270万人 出所:ベトナム統計総局(GSO)]です。人口だけでなく、国土の面積も形も似ています。この写真はベトナムの都市の風景です。緑がほとんどなく、コンクリート・ジャングルみたいになってしまっています。しかもバイクや車が増え続けているために、住環境がどんどん悪化している状況です。

ヴォ・チョン・ギア、ICF2016「Greening the City」発表

ホーチミン市の人口は大体800万人[2015年調べで814万6,000人、出所:ベトナム統計総局(GSO)]いますが、ほぼ毎日、バンコクやジャカルタのようなひどい渋滞が起きています。

実は、ホーチミン市では1人当たりの緑の面積が、0.7平米しかありません。それに比べて東京は10.6平米あります。シンガポールは60平米です。つまり、人に対してほぼ緑がない状態というのが、ホーチミン市の抱える問題です。

ヴォ・チョン・ギア、ICF2016「Greening the City」発表

この緑が少ないという問題によって、最近よく起きているのが汚染と洪水です。ちょっとしたスコールですぐ道路が冠水してしまいますし、年々海面や川の水位が上昇しているので、そういう所にほぼ毎週のように洪水が起きています。

ヴォ・チョン・ギア、ICF2016「Greening the City」発表

そしてとにかく暑過ぎる。これらの問題によって、人々が臆病といいますか、活動的でなくなっている感じを受けます。

ヴォ・チョン・ギア、ICF2016「Greening the City」発表

昔は徒歩や自転車で済んでいた移動手段が、バイクや車になり、さらに大きな車が必要になり……という時代になっている。つまり、人間の欲望がどんどん膨らんでいくことにともなって、都市の住環境がとても大変なことになっているのです。

私たちが考えているのは、「建築とは、人間と自然をつなげるようなものにならなければいけない(ARCHITECTURE should connect HUMAN and NATURE)」ということです。
私たちは、現在の町を、緑化していく建築と都市計画によって変えていきたいと考えています。

ヴォ・チョン・ギア、ICF2016「Greening the City」発表

ひとつの住宅がもたらす都市の緑化――「HOUSE FOR TREES」(2014年)

具体的な例を挙げながら説明していきます。
こちらは「HOUSE FOR TREES」(2014年)というプロジェクトです。

ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之

私の友人が、精神的なトラブルを抱えて部屋から出られなくなってしまいました。それで彼の奥様から家を設計してほしいという相談を受けまして、作ったのがこの住宅です。彼が自然と部屋から出て、しかも自然とつながれるような住宅にしたいと考えました。少々住みづらいところもありますが、例えば、寝室からトイレに行くのに外に出て雨に降られたり、太陽の光を浴びたり、普通に生活しているだけで自然に出会う機会がたくさんあります。私の友人でもあるオーナーは、この家に住むようになって、体調がマイナスな状況からプラスな状況に変化しました。

ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之

建物の形状としては、住宅の各棟を大きなツリーポット[鉢]のようにデザインしています。コンクリート造ですが、竹の型枠[固める前の液状のコンクリートを流し込む型のこと。通常はベニヤなどを使う]を使ったので、コンクリートの表面に横縞模様のような竹のテクスチャーが表れています。

ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之

外から見ると閉鎖的な家に見えますが、中に入るとすごくオープンに中庭に面しているので開放感があります。

この住宅は、ホーチミン市の中でも最も人口が密集している地域にあります。周囲には鉄板屋根の小さな長屋群が広がっていて、緑もほとんどありません。ですから、近所ではこの住宅にだけある豊富な緑を求めて、たくさん鳥が集まってきます。オーナーからは、鳥がうるさいから寝られないというメッセージがよく届きますが(笑)、そのことが彼の心身をすごく活性化させているはずで、病気も少しずつ治っていると思います。

ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之

配置としては、5つのポットを庭に散りばめて置いています。庭は前庭(FORECOURT)と中庭(MIDCOURT)のふたつあり、中庭をアウトドアリビングとしています。

ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之

これは断面です。作りはとても単純で、部屋をこのように配置しています。そして、屋上に分厚い土の層を設けて木々を植えています。ベトナムは雨が多いですし、光もたくさん注ぐので、メンテナンスの必要はほとんどありません。ポットは雨水を蓄える容れ物にもなります。このアイデアが他の多くの住宅に採用されれば、都市の洪水被害のリスクも軽減すると考えています。

夜になるとこのような感じです。

ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之
ヴォ・チョン・ギア、「HOUSE FOR TREES」(2014年)
(C)大木宏之

この写真では空が写っていますが、現在は木がかなり生い茂っていて、ほとんど空が見えないぐらいになっています。
このように、都市にほとんど緑がない状況を少しずつ変えていくためにも、私たちはひとつの住宅や建築を建てるのに、できるだけ多くの緑を使い、増やしていこうとしています。

庭と空間の重なり合い――「BINN HOUSE」(2015年)

ヴォ・チョン・ギア、「BINN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之

もうひとつ、ホーチミン市に設計したヴィラをご紹介します。これは、いくつもの庭を階上に点在させていて、居住空間と庭の空間が重なり合ったようになっています。この家庭には、両親と男の子が2人います。ですから、空間のデザインによって、それぞれの空間を確保しつつも、できるだけ空間をつなぐことで、お父さん、お母さん、子どものいる場所同士がつながるようにしています。

ヴォ・チョン・ギア、「BINN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之

人間と人間のつながり、人間と自然のつながりがたくさんありますし、庭があちこちにあるので、様々なレベルから庭を望むことができます。

ヴォ・チョン・ギア、「BINN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之
ヴォ・チョン・ギア、「BINN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之

このように中庭もありますし、寝室から庭を望み、その向こうにまたダイニングが見えて……といったデザインになっています。

ヴォ・チョン・ギア、「BINN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之

逆に、マスターベットルームからも、いろいろなレベルの庭やベッドルームが見えます。

屋根の緑を町のみんなの庭に――「HOAN HOUSE」(2015年)

ヴォ・チョン・ギア、「HOAN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之

こちらも住宅です。これは、周辺の景観規定で勾配屋根が要求されたため、屋根の上に緑を植えました。

内部はこのようにレンガを活かした設えになっています。

ヴォ・チョン・ギア、「HOAN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之

この勾配屋根は公園のようにデザインしています。ある程度の広さがあるので、空から眺めると、この庭が町全体に別の雰囲気を与えることがわかります。町のみんなのための小さな庭のようにデザインしているのです。

ヴォ・チョン・ギア、「HOAN HOUSE」(2015年)
(C)大木宏之