ASIA center | JAPAN FOUNDATION

国際交流基金アジアセンターは国の枠を超えて、
心と心がふれあう文化交流事業を行い、アジアの豊かな未来を創造します。

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人間と自然をつなぐ建築で、現代アジアの都市問題に向き合う――ヴォ・チョン・ギア講演(Innovative City Forum 2016)

Presentation / Asia Hundreds

地面と屋上、食をつなげる幼稚園――「FARMING KINDERGARTEN」(2013年)

プロジェクトFARMING KINDERGARTENの写真1
(C)Gremsy

このプロジェクトは、敷地の隣にある工場で働いている人たちの子どもが通う保育園です。

プロジェクトFARMING KINDERGARTENの写真2
(C)大木宏之

ベトナムの道路にはバイクがたくさん通っていて、子どもの遊び場がほとんどありません。そのため、できるだけ安全な中庭を作り、かつ、らせん状に地面から屋根につながる一本の緑の道のような空間をデザインしています。子どもたちは、中庭から屋根に走って上がって、また一周走って地面に戻る、を繰り返して遊んでいます。

プロジェクトFARMING KINDERGARTENの写真3 width=
(C)大木宏之

ここでは、屋根に上がっていく道に菜園を作っています。子どもたちの親、つまり工場で働いている人たちが、自分の子どものための野菜を作っているんですね。しかも、子どもたちはこの野菜の庭で遊ぶので、子どもに農業の大切さや人と自然の関係を教える場にもなっています。そうやって、遊び場と学びの場所がひとつになっているのです。

緑のポットを積み上げて森を作るふたつのプロジェクト

1.「FPT UNIVERSITY SAIGON」(建設中)

プロジェクトFPT UNIVERSITY SAIGONの写真1

こちらは、現在計画中のホーチミン市にある大学「FPT UNIVERSITY SAIGON」のキャンパスです。2.3ヘクタールの敷地に、約5000人の学生が学ぶ大規模なプロジェクトです。ここでも同じ問題意識をもって取り組んでおり、学校を緑あふれる森のようにデザインしています。

プロジェクトFPT UNIVERSITY SAIGONの写真2

仕組みとしては、大きなポットの上に大きな木を植えて、その上にまた木を植えたポットを置いて重ねていきます。

プロジェクトFPT UNIVERSITY SAIGONの写真3

そして、大学自体がアクティビティ・スペースになるように設計しています。アクティビティ・スペースでは、スポーツをしたり散歩をしたりできますし、中庭で勉強もできるようになっています。

2.「FPT UNIVERSITY HANOI」(2015年)

プロジェクトFPT UNIVERSITY HANOIの写真
(C) Hoang Le

こちらは、前述のFPT UNIVERSITYがハノイに建てたキャンパスです。

プロジェクトFPT UNIVERSITY HANOIの図

最初にお見せした住宅と同様のツリーポットをひとつのブロックとして、それを格子状に積んでいったものがそのままファサードになっています。一見複雑そうに見えますが、とてもシンプルなシステムです。今ではこのポットから緑がすごくあふれ出ていて、外観の印象もだいぶ変わっています。

アジアならではの竹を使った構造で、巨大建築を作る

Wind and Water Bar」(2008年)

竹を使ったプロジェクトをいくつかご紹介します。

プロジェクトWIND AND WATER BARの写真1
(C)Phan Quang

このプロジェクトは「Wind and Water Bar」といいます。直径15メートル、高さが10メートルの大きなドーム状の建物を、水の真ん中に置いています。バーとして作ったものですが、まさに芸術作品のように見えます。すべての素材を竹で作っていて、ランプや椅子もすべて竹製です。

プロジェクトWIND AND WATER BARの写真2
(C)Phan Quang

BAMBOO WING」(2009年)

プロジェクトBAMBOO WINGの写真1
(C)大木宏之

前述の「Wind and Water Bar」を作った後に、竹で大きなウィング[羽のような構造体]をキャンティレバー[片持ち梁で突き出した構造のこと]で作ったのが、この「BAMBOO WING」です。普段はリゾートのレストランですが、ファッションショーや演奏会、会議などのイベントを行うスペースとしても使われています。構造体としての竹の可能性を研究したプロジェクトで、竹製のウィングを12メートル突き出し、柱で支えない覆いが実現しました。

プロジェクトBAMBOO WINGの写真2
(C)大木宏之

水を張った池の中に置いているので、浮いているようにも見えます。この建物がある地域には冬がないので、ウィングが深い庇になる半屋外空間でも寒くありません。屋根形状は、周囲の池の上を通る涼しい風を建物内部へ取り込むように設計しています。周りには緑もありますし、竹の隙間から風も通り抜けるので、とても涼しく快適な空間です。

SONLA RESTAURANT」(2014年)

プロジェクトSONLA RESTAURANTの写真1
(C)大木宏之

これは、ベトナム北部にあるソンラという風光明媚な地域に作ったレストランで、将来ホテルが出来るエリアに最初につくられた施設です。ハノイからは車で7時間くらいかかる山に奥深く入ったところにある、豊かな自然に恵まれた少数民族の文化地域です。この建物には地元の石と竹をふんだんに使っています。私たちが普段使っている南部の竹をこの敷地まで持っていくのにはすごくコストがかかってしまうため、すべてこの敷地の周辺で調達できる素材――石とか竹――を使うことにしたのです。ここでは、(他の竹を使ったプロジェクトと異なり)竹を曲げずに真っすぐのまま加工して使っています。石もこの地域でとれるもので、地元の職人さんに切ってもらいました。

プロジェクトSONLA RESTAURANTの写真2
(C)大木宏之

ディテールには、なるべくスチール[鉄]を使わないようにしています。竹は同じ竹でつくった釘とロープを使って組み立てていて、壁と竹の梁がつながる部分にのみスチールを使っています。コンクリートを竹の中に詰めて補強しています。

プロジェクトSONLA RESTAURANTの写真3
(C)大木宏之

このディテールは日本の木造に近いところがあります。この種類の竹の特性上、柱や梁としてはあまり長いスパンを飛ばせないこと、1本が耐えられる過重が少ないことがあります。そのため、結果としてたくさんの竹を束ねて使うこととなり、柱や梁の本数も通常のものより多くなってしまうんですね。ですが、それによって竹の森のような趣の異なる空間を作ることができました。

DIAMOND ISLAND COMMUNITY CENTER」(2015年)

プロジェクトDIAMOND ISLAND COMMUNITY CENTERの写真1
(C)大木宏之

こちらがご紹介する最後のプロジェクトです。ホーチミン市の中心部近くの集合住宅開発エリアで、その開発のコミュニティーセンターとして作ったものです。大きなドームがふたつあって、その周りに少し小さなドームが6つあります。

プロジェクトDIAMOND ISLAND COMMUNITY CENTERの写真2
(C)大木宏之

周りには蓮の池が広がっています。ドームの構造は竹で、まさに鳥の籠をそのまま大きくしたようなものです。

プロジェクトDIAMOND ISLAND COMMUNITY CENTERの写真3
(C)大木宏之
プロジェクトDIAMOND ISLAND COMMUNITY CENTERの写真4
(C)大木宏之

直径25メートルある大きい方のドームは、下側がぐるりと開いていて、茅葺屋根の頂点に穴がひとつ空いています。空気は暖かいと上昇しますから、下部の隙間から外の風が入ってきて、天井に向かって抜けていくんですね。結果、風がよく通る空間となり、とても快適に過ごすことができます。

ベトナムの都市は、経済発展によって急速に様変わりしています。都市が失った緑を戻していくこと、竹や石などの地元の素材の良さを活かした建築をつくることで、人々の生活がより豊かになれる建築をつくることを考えてきました。熱帯地域に力強く育つ緑と地元で産出される美しい自然素材はベトナムの魅力のひとつです。それらで人間と自然とつなぐ建築をつくることは、 経済的に豊かになる以上の実りをこれからのベトナムに与えてくれると思います。

どうも有難うございました。

プレゼンテーションの様子の写真

編集:柴原聡子
Plates:Courtesy of the Author