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シャリファ・アマニ――ヤスミン・アフマドがいた時代:マレーシア映画のニューウェーブ

Interview / Asia Hundreds

マレーシア・ニューウェーブの過去と現在

シャリファ:当時、ヤスミンの才能がピークにあった理由は、2000年代からマレーシア映画にニューウェーブがやってきたからです。その波を起こしたのは、ヤスミン・アフマド、タン・チュイムイ、ジェームス・リーなどでした。しかし、私たちの映画が様々な映画祭から注目されるようになった矢先に、突然ヤスミンがこの世から去ってしまいました。

エドモンド:私は残念ながら間に合いませんでした。

シャリファ:すると皆、親しくなることをやめてしまいました。マレーシアはいつもそうです。フレンドリーで協調性があるときがあっても、それをまとめていた核となる人物がいなくなると反目し合ってしまう。ニューウェーブ後には、ヤスミンのように威信のある人はいません。マレー人で、女性で、ムスリムで、他のだれかのために戦う人です。彼女は言語や人種、信仰を越えて、マレーシアの映画人を結びつけた中心的な存在でした。彼女なら誰に対しても「私たちにそんなことが不可能だなんて、どこに書いてあるの」と反撃してくれたでしょう。私たちには今、立ち上がってどんなことでも臆せず発言してくれる人が必要です。検閲委員会に対してきちんと抗議できる人、他人のために戦う勇気がある人が。そうして、私たちはもう一度挑戦し、映画を作り続けなければなりません。

石坂:ヤスミン亡き後、ニューウェーブそのものが消え去ってしまったのですか。

エドモンド:消えつつありますね。

シャリファ:いいえ、消えてはいません。ヤスミンがいた時代、マレーシア・ニューウェーブで注目された映画人はみな、協力し合っていました。ホー・ユーハンの作品にヤスミンやピート・テオが出演し、ピートは『タレンタイム』の音楽を作曲するという具合に。ピートが製作した短篇オムニバス『15マレーシア』(2010)には名だたる監督が参加し、そこにはヤスミンの遺作『Chocolate』も含まれています。ヤスミンはコラボレーションが大好きでした。このような協力関係がもっと必要だと思います。

映画のスチル画像
(C)Primeworks Studios Sdn Bhd
ヤスミン・アフマド『タレンタイム』(スチル)2009年

近年のマレーシア映画界では商業的成功が重視され、誰かが誰かのために協力する、かつてのような映画人同士の結びつきは弱まってしまいました。私にはよい仕事をしたいと願い、素晴らしい物語のアイデアを持つ友人がたくさんいますが、彼らにはそれを実現する資金も、資金提供しようという人もいません。だから極めて営利本位でばかばかしいコマーシャルやウェブ・シリーズを作らなければならない。最近は全てがウェブ上にあって、パラダイムが一変してしまいました。あなたが何を知っているかではなく、誰があなたを知っているかが重要になったのです。例えばインスタグラムで何百万ものフォロワーがいるといった、利益になる要素です。才能があるかどうかではなく、いかにうまく自分を晒し、それを利用するかが重視されます。このようなことが映画産業を変えてしまうのです。細部にこだわって時間をかけることが、時間の無駄とみなされてしまう。その結果、作品を機械的に生み出すだけで、クオリティに自信がなくなってしまう。これは問題です。

石坂:映画監督としてはもちろん、ヤスミンはCMディレクターとしても、意欲的で素晴らしい作品を遺しました。

シャリファ:ヤスミンが作ったCMには、理解すべき大切な何かがあります。私たちには同じ血が流れていると気付かせてくれる何かです。少年も少女も違いはありません。女性も男性と違いはありません。その何かとは、全ての人がもつ生きる権利です。ヤスミンのCMは事あるごとに、私たちにそれを気付かせてくれます。しかし、今はそのようなCMはありません。

エドモンド:作ろうとしても、うまくいかないのです。多くのCMが彼女のスタイルを模倣しますが、感情が伴っていません。

シャリファ:『ワスレナグサ』を作ることができないのも同じ理由です。個性的で才能ある誰かの模倣なんて不可能です。そうではなくて、その人の作品を理解した上で、自分の作品を作るべきです。例えば、ヤスミンがあなたを奮い立たせてくれたもの、些細なことについて。彼女が自分の作品の中で取り上げたのは、自身のことではなく様々な人々でした。彼女の作品から着想を得るのであれば、彼女はとても喜ぶでしょう。しかし、ただの模倣であれば、成功することはないでしょう。

ヤスミン監督の映画制作について語るシャリファさんの写真

シャリファ:ヤスミンがこの世を去ったとき、私が感じていた多くのサポートも失われたと感じました。ヤスミンは、多くの人々を一つにまとめることのできる人で、映画が上映される夜を愛していました。ブロガー、俳優、レポーターなど、本当に様々な人が彼女を大好きで、さまざまなことを語り合いました。ヤスミンの不在は計り知れないほど大きなものです。その一方で、今はエドモンドのような新たな才能も出てきています。

石坂:エドモンド監督は日本の映画人とも作品を撮っていますね。

エドモンド:他に選択肢がないと気付いたからです。マレーシアではコラボレーションできません。日本だからできるのです。

シャリファ:そうなんです。エドモンドたちはどうしたら自分の映画を世に出せるのかを真剣に考え、日本との共同製作にも熱心です。このような新しい流れが、再びマレーシア映画界を変えていくのだと思います。

【2017年3月23日 クアラルンプール日本文化センターにて】


インタビュアー:石坂健治(いしざか・けんじ)

日本映画大学教授・映画学部長/東京国際映画祭「アジアの未来」部門プログラミング・ディレクター。1990~2007年、国際交流基金専門員として、アジア中東映画祭シリーズ(約70件)を企画運営。2007年に東京国際映画祭「アジアの風」部門(現「アジアの未来」部門)プログラミング・ディレクターに着任して現在に至る。2011年より日本映画大学教授を兼任。

参考情報

第30回東京国際映画祭(会期:2017年10月25日~11月3日)の「国際交流基金アジアセンターpresents CROSSCUT ASIA #04 ネクスト!東南アジア」では、ASEAN各国の巨匠が推薦する若手監督作品を中心に紹介。その中で、マレーシア代表として女優のシャリファ・アマニが『私のヒーローたち』(エリック・オン監督)、同部門のプログラミング・ディレクター石坂健治がエドモンド・ヨウの『ヤスミンさん』を推薦。お見逃しなく。

CROSSCUT ASIA #04: 「ネクスト!東南アジア」-Special Trailer 特別予告編

外部リンク

シャリファ・アマニ IMDbページ(英)

エドモンド・ヨウ 公式ウェブサイト(英)

マレーシア映画新潮の概要について

『15マレーシア』 公式ウェブサイト(英)

『タレンタイム』 公式ウェブサイト

『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』 公式ウェブサイト


編集:西川亜希(国際交流基金アジアセンター)
写真:高崎郁子(アテネ・フランセ文化センター)