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カーステン・タン――『ポップ・アイ』ゾウと人間の物語に至るまでの道のり

Interview / Asia Hundreds

人生、時間をテーマにした映画づくり

(以下、学生との質疑応答)

学生:タン監督は映画が好きで監督を目指したと言っていましたが、どうしてカメラマンや俳優ではなく、映画監督を志したのですか?

タン:選択肢の多い日本の映画産業と違って、シンガポールの映画産業はとても小さく、無いに等しい状況なので、映画の道に進む場合、自分でその道を切り開き、自分で映画を作らなければなりません。そのため私も、自分で映画を製作し、編集も行います。シンガポールで映画を勉強していた頃は、撮影監督を目指していた時もありましたが、ある先生に「女性で撮影監督をやるのは大変だから監督の方が良い」ともアドバイスされました。

学生:いろんなメディアがある中で、映画というメディアを通して監督は何を伝えたいのでしょうか?

タン:小説や音楽などそれぞれに意味があるように、私も映画を通じて何かしら意味のあるものを伝えていきたいという思いが、多かれ少なかれあります。『ポップ・アイ』においては、私は時間の流れ、時間がどのように存在しているのかを表現したいと思いました。私が映画を作るうえでまず念頭に置くのは観客です。
皆さんも映画を観て、鑑賞に費やした2時間を返せと思う事があるように、映画をどう受けとめるかは人それぞれ違って、ある人にとっては素晴らしくてもある人にとってはつまらないことが常にありますが、私は作品を観た人の世界が何かしら広がったり、自分なりの何かを受け止めてもらえたらと思いますし、よほど酷い映画でなければ、何かしら意味がそこにはあるのではないかと思います。

学生の質問に答えるカーステン・タン監督の写真

学生:人生や時間をテーマにした映画を撮りたいとのことですが、象を主人公にしたロードムービーにした理由は何ですか?

タン:私が描く映画のテーマは、人生、時間、何かの存在そのものです。脚本というのは、パズルを組み合わせていくような作業で、本作ではまず私の頭の中にあったのがロードムービーを作りたいということでした。その中で、ふと象のイメージが頭の中に浮かび、道を歩いているイメージを描いたら、男性が登場することを考えついたのですが、そういう要素を組み合わせて、最終的に時間を描きたいと考えていました。だから理由を説明できないところもあるのですが、日常的に象に遭遇していたタイでの思い出が無意識に影響していたのだと思います。
イングマール・ベルイマン監督が「直感。私は暗闇に球を投げる。知性。私はやりを集めるために、兵を送る」*1 と言っていましたが、脚本を書くプロセスというのは書き手の無意識が引き出される過程であり、その無意識というのが何を意味するのかを紐解いていく過程なのだと思います。私も脚本を書くうえで、まず何かを想像して、頭の中で作り上げて、それが何なのか振り返って分析していきます。そういうことの繰り返しの中で、彫刻のように、ひとつの形が浮かび上がる、それが映画だと思います。

*1 次の記事からの引用。"Ingmar Bergman Confides in Students," the New York Times online, May 7, 1981. 以下で閲覧可能。http://www.nytimes.com/1981/05/08/movies/ingmar-bergman-confides-in-students.html

土田:非常に面白いお話をありがとうございます。もしかしたらそういう無意識があるからか、本作がタネート氏のドキュメンタリーのように見えました。タネート氏は今後も俳優として活動されるのでしょうか?

ワラークンヌクロ:俳優も続けたいですし、いつか監督もやりたいと思っています。

土田:タン監督は、次にどのような作品を予定しているのでしょうか?

タン:いまは本作でいろんな映画祭を回っているので、脚本を書く時間があまりないのですが、実は2つ考えていて、ひとつはシンガポール、もうひとつはニューヨークが舞台です。どちらが先に出来るか分からないですが、来年取りかかれたらいいなと思います。

土田:それでは、監督から最後に一言お願いします。

タン:短い時間ではありましたが、みなさん芸術や文化に興味をもって聞いていただき、ありがとうございました。心が引き裂かれるような問題や事件がたくさん起きているいまの時代、芸術や文化こそお互いをよく理解しあえると思いますし、理解を深めるためにはこのように伝えていくことの重要性を感じています。今日はありがとうございました。

【参考情報】

カーステン・タン公式Webサイト(英)

『DAHDI』作品情報

『DAHDI』予告編

『ポップ・アイ』作品情報

『ポップ・アイ』予告編


通訳:若井真木子(山形国際ドキュメンタリー映画祭・東京事務局)
編集:掛谷泉(国際交流基金アジアセンター)
写真:国際交流基金アジアセンター