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タイ×フィリピン×インドネシア気鋭監督たちが語る映画づくり

Interview/第28回東京国際映画祭

映画を通して描く、いま自国を取り巻く状況

――今回、皆さんの出品作品を観て、例えばタイの政情やインドネシアにおけるムスリム社会、フィリピンの地方産業など各国の社会や文化、また現代におけるそれぞれの変化とそれに影響される人々の姿が色濃く反映しているように感じました。出品作を含めて、お三方の映画づくりのテーマについてお聞かせください。

コンデート・ジャトゥランラッサミー(以下K):『スナップ』(15)では、人間の感情、例えばノスタルジアや誰かを想うとか、ロマンスというものについて考えました。タイでは2014年にクーデターが起きたばかりで政情が不安定な状況にあり、クーデターを支援する人までいます。そんな状況の中で、人々はノスタルジアとかロマンチックという感情を持ち続けられるのか、というのが本作で考えたことです。タイではこの数年、日常生活に政治が深く関わってきて、避けては通れない状況にあります。政治的見解が異なることで喧嘩することもあります。このような状況の中でインディーズ映画を手がけるのは大変ですが、自分としては時代の記録をしたいという思いがあり、映画の中で政治を暗喩として取り入れる形をとっています。

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コンデート・ジャトゥランラッサミー監督

イスマイル・バスベス(以下I):イスラム教やムスリムについて、いま過激派グループの活動やテロリズムといったものが題材として多く取り上げられていますよね。インドネシアは世界一のムスリム人口を抱えていますが、イスラム教を政治的なツールとして使う人が多い一方で、我々にとっては普通の日々の生活の一部なので、過激派と言われる人々と違って何かムーブメントを起こすことなど考えていません。この映画を通して、そのことを伝えたいと思っています。ムスリムと一言で言っても、人間なので、その中には様々な関わり合いがあります。この映画を撮るときにも、過激派と言われる人々に配慮しないといけないという難しさはありました。やはり一番重要なのは、インドネシアは何百もの島からなる国であり、それぞれの島に違う文化や言語、宗教があるということ。また、イスラム教について間違った解釈を持たれている人もいるので、まず対話から始めなければならないという思いで、この映画では父親と息子の関係性から、政治を家族に置き換えていきました。家族の中でもきちんとした対話があれば互いのことを受け入れることができるように、何百の島やいろんな国がある中で、まずは自分たちの国の中から対話を始めて我々が信じていることややっていきたいことを説明する機会を作り、それによって理解してもらおうと考えたのが、このテーマでした。インドネシアのいろんな島々の人にも訴えていき、その次に海外に向けて、過激派ではない、違うイスラムの姿があることを伝えたいのです。

ポール・サンタ・アナ(以下P):『バロットの大地』と自分の過去二作では共通して、社会的な視点で貧富の差、都会と地方の生活の違いを描きたいという思いがありました。この映画の題材であるバロットは昔からあるフィリピンの珍味ですが、なぜこれを題材にしたかというと、若者はもっと伝統や文化のルーツというものを大事にして、受け入れていかなくてはいけないと思ったからです。いまの若者は西洋の影響を受けすぎていて自国のアイデンティティを失いかけていると思います。だからテレビなどでもバロットは気持ち悪い、食べたくないものとして紹介されていますが、これが昔から存在するものであること、そこから伝統文化を感じられること、またバロットの作り方を見て誇りを持って作っている人たちがいることを映像で描きたいと思いました。また、バロット作りはアヒル農場主と主人公のような地主とのテナントの関係で成り立っているですが、本作のもう一つのテーマとして、この関係を通して「社会人の責任」を描きました。特に、中流階級の人たちは教育環境においても、何かを変えようという力を一番持っていると思うので、そういう人たちに社会というものを考えてもらい、貧困も含めて世の中を何とか変えていってもらいたいと強く思います。その象徴が本作の主人公で、父から受け継いだ農場を売りたいと考えていた彼が、伝統文化に触れていく中で何が大事なのか気づいていく。その姿を通して、社会人としての責任というものを訴えていきたいと思いました。