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女性ダンサーが語る、満員電車で培われた日本人の文化と個性 山田うん×北村明子対談

Interview

インドネシアの武術プンチャック・シラットのある流派では「プトリ」っていう女性の技が最高位なんです。一番上手くならないと教えてもらえない。(北村)

―1月末に行なわれた、山田さんのクアラルンプール公演を拝見させていただきました。『ワン◆ピース』(マレーシアキャスト版)と、ダンスカンパニー「Co.山田うん」による『春の祭典』の二本立て。非常に充実した内容で、打ち上げも深夜まで盛り上がっていましたが、朝7時発の帰国の飛行機には無事に乗れましたか?

山田:乗れましたよ、朝までサルサクラブで踊っていましたけど(笑)。現地のダンサーたちに行きつけの店に連れて行ってもらって。ナイトカルチャーの1つとして、じつはサルサがいまアツいんですよ。

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Co.山田うん『春の祭典』マレーシア公演 ©Wakako Aichi

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山田うん『ワン◆ピース』(マレーシアキャスト版) ©Wakako Aichi

北村:日本でもサルサブームありましたよね。ラテンのノリって有無を言わさず、その場にいるだけで巻き込まれちゃう。

山田:もう腰とか振っちゃって。プロみたいな人が教えてくれるんですけど、10分くらいするとすぐ踊れるようになるので、気がついたら知らない男の人にグルグル回されたりしてる(笑)。

北村:上手い人にリードされてね。

山田:ただ、サルサの踊りは男性に主導権があるんですよね。そこがちょっとね、だんだん腹が立ってくる(笑)。

北村:すごくよくわかります(笑)。

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北村明子

―お二人とも日本だけでなく、他のアジアの国々での活動も活発ですが、東南アジアに通いはじめたのは、北村さんのほうがやや早いんですよね?

北村:最初は武術に興味があって、「プンチャック・シラット」というインドネシアの武術を習いはじめたのが2003年頃。そのときは毎年バリの山奥に通って、とんでもなくハードな修行をしていました。朝6時に起きて3時間、昼3時間、夜3時間。

山田:ええ~~。

北村:いまはもうできない(笑)。

―北村さんといえば、インドネシアのダンサーとのプロジェクト「To Belong」や、最近はカンボジア、ミャンマー、インドへもリサーチに行かれているそうですが、もともとは武術への興味だったんですね。

北村:大学時代にはダンス以外にも空手を習ったり、古武術研究家でもある甲野善紀さんの道場に通っていたこともあります。

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北村明子『To Belong / Suwung』 photo:大洞博靖

―山田さんも甲野善紀さんとは交流がありますよね。今日は女性ダンサー二人の対談ですが、お二人ともやっていることはわりと男っぽい。

北村:他のアジアの国へ出かけて行くと、現地で知り合う女性ダンサーや女優の方たちがすごくたおやかで……、衝撃を受けることが多いです(笑)。

山田:そうそう、女性として潤ってる!(笑) ダンスよりも演劇のほうが顕著で。そもそもムスリムでヒジャブ(イスラム教の女性が頭や身体にまとう布)を毎日身につけているような女性も、カラフルな布やアクセサリーでオシャレに気を使っていたり。私の関わった学校などでは、たおやかで潤っていて、ピュアで、ちょっと殻を割ると泣いちゃうくらい繊細な方が多かった印象がありますね。

北村:インドネシアのスマトラ島に暮らす、ミナンカバウ人のような母系社会に行くと、また違うのかもしれません。ちなみにインドネシアの武術プンチャック・シラットの伝統流派の1つPDでは「プトリ」っていう女性の技が一番高位なんです。一番上手くならないと教えてもらえない。その動きもたおやかで、ちょっとした仕草で相手を倒すような技になっているんですよ。

女性アーティストが集まる会議には、インドネシアのお姫様や、マレーシアでホームレスになることを選択したアーティストの方などが集まっていました。(山田)

―山田さんはここ数年、マレーシアでの活動が続いています。

山田:マレーシアのダンスキュレーター、ビルキス・ヒジャスが女性のパフォーミングアーティストが集まる会議「Work It!」(2012)に招いてくれて、そこからずっと交流が続いています。会議で私のプレゼンテーションを見た人が翌年、大学のインターナショナルダンスフェスティバル「Tari13」に呼んでくれて、そのフェスを見た演劇の先生が、また翌年にフィジカルシアターの授業をやってくれと。そこでいろんな学生と知り合っていくうちに「Co.山田うん」の作品を踊れる人がいそうだとわかったので、じゃあオーディションをしよう、と次々につながっていって。

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山田うん

―「Work It!」はどんな方の集まりだったんですか?

山田:アジアから6か国、ヨーロッパから6か国、合計12か国12人の女性パフォーマンスアーティストです。インドネシアのお姫様や、マレーシアでホームレスになることを選択したアーティストの方、ブラジルやノルウェーやギリシャ出身のコンセプチュアルアートを突き詰めている方などが集まっていました。みんなとてもポリティカルで、批評的で、マイノリティーで強烈でした。それぞれの表現手法を公演形式でプレゼンしたり、インド舞踊やフラメンコ、ギリシャ民族舞踊や阿波踊りなど、祖国の伝統芸能を教え合ったり、朝から晩まで喧々囂々を10日間行いました。

―女性ならではの議題も多そうですね。

山田:マレーシアでも女性にまつわる問題はいろいろあります。一夫多妻制の文化なので、ジェラシーやDVの問題とか。会議参加者全員で女性のための保護相談センターに取材にも行きました。そこで聞いた話をもとに、今度は私たち自身を振り返って見ると、じつはそれぞれが性的マイノリティーの問題を抱えていたり、いわゆる普通の「女性」なんてほとんどいないことがわかった。先ほど「女性らしさ」の話が出ましたけど、ものすごく巨漢の方とか、女性同士で結婚していて最近やっといい精子を見つけて子どもを授かった女性とか。なかなか過激な話し合いになりました。