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現代マレーシアに鋭く切り込む社会派集団 ――マーク・テ&ジューン・タン インタビュー

Interview / Asia Hundreds

今後に向けて―「コレクティブ」の再考と新たな挑戦

―残念ながら時間がなくなってきました。これからのファイブ・アーツ・センターについてお伺いしなければなりません。最新の動向についてお聞かせいただけますか。

ジューン:2015年だけで3つの公演を予定しています。マークの作品が韓国の光州(グワンジュ)の舞台芸術フェスティバルに招へいされ、オープニングアクトのひとつに選ばれるという光栄な機会をいただきました。国外でツアーするという意味において、私たちにとってたいへん重要で意味のあることだと思います。年末にはミュージカルの作品がひとつと、もうひとつマークが関わる歴史に関する作品も予定しています。それから、これまで30年にわたって書かれてきた戯曲10~15本をまとめた出版物を刊行する予定です。

マーク:加えて言うと、「コレクティブ」という私たちのありようを考え直す時期にきていると思うんです。さっき「拡散」という話をしましたが、「メンバーシップ」に対する意識やその必要性が薄まってきているという言い方もできると思います。私たちの活動に深く関与しているにもかかわらず、ファイブ・アーツ・センターのコレクティブメンバーではないという人たちもでてきたように、メンバーシップについて再検討する時期にきています。
ツアーについてですが、ここ数年、国外で私たちの活動について話をすることが増えてきました。上演のみならず、今回のようにトークをしてほしいといわれることもあります。韓国や日本に招かれる機会が多くなってきました。30周年を迎える団体が、いままであまり考えてこなかったというと不思議に思われるかもしれませんが、私たちはツアーや国外での公演を重視してこなかったので、このことについても問い直しをしています。

―光州のフェスティバルではどの作品を上演されますか?

マーク:『The 1955 Baling Talks』という作品です。1955年にバリンという小さなまちで行われ、不合意に終わった共産主義のリーダーのチン・ペン(Chin Peng)と、のちに初代首相になるトゥンク・アブドゥル・ラーマン(Tunku Abdul Rahman)との平和会談の会議録にもとづいた作品の新バージョンです。初演は2005年ですが、再演を重ねるたびにバージョンが異なり、いまでは完全に違うものになっています。唯一変わらないのが、実際の会談の会議録を使用しているという点です。

―国外での活動を重視してこなかったということですが、マレーシアの歴史的な出来事や社会背景を踏まえた作品が多いことも理由にあると思います。新バージョンの作品では、上演地域を意識した作品構成になるのでしょうか?

マーク:歴史を共有していない人に、異なる文脈をどのように伝えるのか考えるのに時間がかかりました。実は、何年か前にヨーロッパから招待されたことがあるのですが、その時、私は拒否してしまったんです。作品をツアーできる機会を棒に振るとは、なんてバカなやつなんだと作品チームのメンバーからたいへん怒られました。
本作の核は、国民国家とは何かとか、国や降伏、忠誠、独立、自由といったこれまで議論されてきた言葉の意味は何なのかといったことの問い直しにあります。それは、いま現在の世界の状況をみるにつけ、国を超えた世界的な文脈とも関係するテーマではないかと思います。たとえば、韓国の光州事件についてもよく承知しています。
私たちは、ドキュメンタリーの手法をもちいて作品を創作しています。たとえば、パフォーマーや政治家であるファミ・ファジルは、スピーチライターの視点からこのテキストを分析していくという作業をしていますし、記録映像とあわせて新しい映像の投影も予定しています。確かに、マレーシア人以外の観客、新しい観客にどのようにこの作品を伝えていくかは、私と作品チームにとって新鮮でエキサイティングなチャレンジだといえるでしょう。

映像作品 The 1955 Baling Talks の上映中の様子
The 1955 Baling Talksphoto: June Tan

―最後に、国際共同制作とネットワークについてお伺いします。国際共同制作において重視している点とその可能性についてお聞かせください。

ジューン:「多様性の強み」だと思います。他者となにかをつくるということは、必然的に外部の視点が持ち込まれるということです。それは、国内のものでも国際的なものであったとしても、あらゆる共同制作のカギになるのではないでしょうか。
広く捉えると、異文化、異なる背景をもつもの同士で理解しあうことは、ネットワーク形成においてもっとも基本的な考え方です。相手を理解するということは、相互に尊重し合い、意義のある関係性を構築することにつながります。
もうひとつどうしても言いたいのは、自分と異なる人とつきあうということは、自己を再発見する最良の方法だということです。自分自身についてもっと知りたいという欲望を促してくれます。そして、どう自分が変化できるのか、あるいは付け足していけるのか、自分の仕事の仕方を変えられる可能性が高まれば高まるほどワクワクしますよね。ちょっとヒッピー的な答えだったでしょうか?(笑)

―マークさん、ジューンさんにはこれまでにもお話を伺ってきましたが、今日もたいへん興味深いお話をいただきました。マレーシアの置かれている状況は、日本においても無関係ではありません。特にジェントリフィケーションやフェスティバルに関する考察は引き続き考えていきたいテーマです。光州での成功と、ファイブ・アーツ・センターのさらなる進化を楽しみにしています。

マーク氏、ジューン氏、樋口氏が一緒に写っている写真
撮影:山本尚明

【2015年2月12日、横浜市桜木町にて】


聞き手:樋口貞幸(ひぐち・さだゆき)

インディペンデント・アートアドミニストレーター。NPO法人アートNPOリンク常務理事兼事務局長、NPO法人舞台芸術制作者オープンネットワーク監事、NPO法人淡路島アートセンター監事、一般社団法人ダンスアンドエンバイロメント監事、トヨタ・子どもとアーティストの出会い事務局アドバイザーなどを務める。社会運動としてのアートに関心をもっている。

通訳:藤岡朝子