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映画分野における次世代グローバル人材育成について――「東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019」シンポジウム

Symposium / Asia Hundreds

映画分野における人材育成の課題と展望

池田:日本人が世界に出ていくための支援プログラムなどもありますが、全般的には引きこもり傾向にあるとすれば、海外からもっと多くの人が来て日本人が刺激を受ければ、また変わっていくのではないかとも思います。

市山:日本にアジア映画に出資するファンドがあると全然違うと思います。一時期NHKがアジア映画に出資していました(アジア・フィルム・フェスティバル)が、ああいうものがあると日本に積極的にやってきて人的交流が生まれますよね。それから、日本に来る理由の一つにロケ地があります。私も東南アジアの監督からよく相談を受けますが、本当はそこに資金的なサポートをするファンドや組織があると、日本に来てくれることが増えるのではないかと思います。

池田:日本におけるアジアン・ファンドの提言は非常に重要かと思います。最近、KOFIC(Korean Film Council/韓国映画振興委員会)がASEAN諸国との連携を打ち出しています。

藤岡:でも日本の魅力は、お金だけじゃないと思います。クリエイティビティを育む自然環境と風土。温泉もありますし、ロケ地もそうです。映画祭のような短い滞在で映画観客と出会うのも良いと思いますし、長期のやはり合宿滞在で、北海道に撮影のために来るクルーが日本のことが大好きになると聞きます。日本の文化や暮らし、日本映画史が培ったノウハウなどの価値も挙げられます。例えばセミナーなどで手を挙げて「はい、こうです!」と即答ができなくても、人の中には積み上げられているものがあって、それは時間を共有していないと話せなかったり、伝えにくいものもあります。だから、お金というより、時間みたいなものを日本は提供できるのではないかと思います。世界中、特に東南アジアがとても加速化している時代に、日本はゆっくりした場所や暮らし方などを提案できる時代に入っているのではないかと思います。

シンポジウムで語る藤岡氏の写真

池田:それでは、会場から質問を受け付けたいと思います。その前に、事前に受け付けた質問で、映画祭や映画のマネジメントについて寄せられました。映画祭というのは、極論を言えば、映画を作って観てもらうことに全部繋がってきますが、観てもらう、映画を観客に届けるための色々な勉強をするのに非常に良い本があります。25年前の本ですが、「芸術経営学講座(4)映像編」(松本正道編、佐々木晃彦監修(1994年)東海大学出版会)は、一度読まれることをお薦めします。

質問者:映画祭では、東南アジアや中国の若い監督がすごく英語が堪能でQ&Aでも英語で対応しているのに対し、日本の若い監督で自分の作品に対する情熱を英語で発信している方をこれまであまり見たことがないのですが、これからアジアの若い監督と交流をしていくうえでも語学力が必要になってくると思いますが、どうでしょう?

池田:英語で自身の企画をプレゼンテーションすることを「ピッチング」と言い、既にそれをしている方ももちろんいますが、一般に知られていないことは我々映画業界の責任でもあるかと思います。通訳もされている藤岡さんから一言お願いします。

藤岡:ジャ・ジャンクー監督を市山さんに紹介したのが私の功績だと思っていますが(笑)、彼と初めて会った時のことをよく憶えています。当時、監督は「Chairman Mao(毛沢東主席)は英語を喋らなかった」と学校で学んだと笑いながら、カタコトの英語で喋っており、学校の英語教育のレベルがとても低かったと言っていました。それが今やみるみる英語力を伸ばしました。国籍は関係ないですし、その人が伝えたいことがあれば身に着けていけるものだと思います。

市山:ジャ・ジャンクー監督は最初の頃は各国の映画祭に招待されても通訳を連れていくお金がないので、一人で行かざるを得ませんでした。そうすると自分が話さなければいけない状況に追い込まれます。勿論Q&Aでは通訳がつきますが、パーティーなどでは一人なので無理やり話し始めるしかないので。たしか最初に会ったのは1998年2月のベルリン映画祭でしたが、その年の10月の釜山映画祭ではもう少し話せるようになっていて、2013年にカンヌで『罪の手ざわり』という映画で受賞してスピーチを行った際には、中国語通訳が横にいましたが、結局英語で喋っていました。日本人の場合、間違ったことを言うとまずいといって、結局日本語の通訳を通したがるのですが、自分の言いたいことはなるべく自分の言葉で発信しようとか、文法などが多少間違ってもいいから勇気を持って自分の言葉で言おうという性格や意欲なのかと。数年前からは監督本人から電話がかかってくるようになり、英語で直接本人と話すほどに上達しています。

藤岡:一言付け加えると、通訳を使うことも恐れないでいただきたいです。現場で、言葉よりも行動が先に出て一緒に共同作業をしていくような場合は、言葉よりも大事なことがあるかもしれませんが、先日、香港映画祭のフィルム・ファイナンス・フォーラムで濱口竜介監督が受賞されました際、壇上で「この受賞は、通訳に感謝しなければなりません」と言われていたのを素晴らしいと思いました。通訳者を選ぶということに関しても、監督のスタッフィングの才能の一つだと思います。

シンポジウムで語る池田氏の写真

池田:そういう意味では、英語ができない方に対する通訳の支援というのも大事なのかもしれません。慣れていけば自分の言葉で喋るでしょうし。それでは、最後に皆さんから一言ずつお願いします。

安岡:今日ご紹介した「アジア・ドキュメンタリー国際共同制作ネットワークフォーラム」は今後も続きますが、ただ映画祭の助成も必ずしも恒常的に保障されるものではないので、共同制作の環境をどのように安定させていくのか、いずれのプロジェクトについても大きな課題だと思います。しっかりとしたファンドが恒常的に国際的なアクションを支えることが望ましいです。日本の学生たちにも非常に多くの刺激を与えてくださっているので、もっともっと広げて続けていきたいと思います。

藤岡:似たようなことを考えていましたが、この山形国際ドキュメンタリー道場や他の色々な映画祭を継続していくうえで長期的なビジョンを持ちにくいといつも思います。この先のプランニングや経営の安定を考えた場合に、単年度の助成金が開催の6か月前に下りるというやり方には限界があるので、この先どのように資金面の安定性を確保していくかをいま悩んでいます。欧米だと私たちのようなワークショップで30万円なり50万円という参加費をとって実施しているところもありますが、それをやったほうがいいのかどうか、もし良いアドバイスがあればお聞きしたいと思います。

池田:助成金の問題については、セゾン文化財団は非常に先進的な助成プログラムを色々と作っているので、助成に興味のある方は、同財団の片山正夫氏(現理事長)が執筆した「セゾン文化財団の挑戦―誕生から堤清二の死まで」(2016年 書籍工房早山)も参考になると思います。

市山:いま中国映画はかつての日本映画のようにものすごい勢いで、少なくとも資金面では中国国内で十分やっていける状態になっていますが、逆に日本の場合は、メジャー映画は成功しているものが多いものの、インディペンデント映画を国内で資金を集めて作るのは非常に難しくなっています。それを何とか低予算で凌いで、現場の人たちの待遇が良くないなどの問題が発生しながらも何とかやっている状況なので、それこそ東南アジアの監督たちと結構似たような立場にあると思います。それがタレンツ・トーキョーへの日本人の応募が増えている要因のひとつかもしれませんが、そういうふうに海外の人たちと一緒に映画を作ろうとしている人たちが出てきている状況なので、これに対していろんなサポートの場があると大きく羽ばたく人が出てくると思いますので、いろんな形でサポート出来ればいいと思います。

池田:最後に、ここにいる全員が出来る人材育成の方法が一つあります。それは、映画を観ることです。映画を観る人がいなければ、いくら作っても映画としては成立しません。
「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」も2020年度までの予算なので、それ以降も国際交流基金アジアセンターの貴重な活動が継続できるように、(公的資金の支出に対して)厳しい目も必要ですが、ぜひ皆さんご支援いただければと思います。

【2019年7月3日、東京芸術劇場 ギャラリー1にて】

シンポジウム第二部については以下でお読みいただけます。
映画制作におけるコラボレーションの未来図――「東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019」シンポジウム


モデレータ:池田 高明(いけだ たかあき)
株式会社NHKエンタープライズ エグゼクティブ・マネージャー 映画チャンネル編成プロデューサー等を経て、2007年株式会社国際メディア・コーポレーション(現NHKエンタープライズ)入社。以来、映画やTV番組の買付け、ライセンス業務に携わる。現在、経営企画室(法務・審査)勤務。人材育成分野では、映画上映専門家養成講座、映画美学校映像翻訳講座特別講義、大学の映像ビジネス論講座等の講師を歴任。2011年よりタレンツ・トーキョー選考委員。文化経済学会会員。