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オンライン・アジアセンター寺子屋第4回――日本とアジアのサッカーのこれから~サッカー指導者の長期派遣事業から考える~

Report / Asia Hundreds

共に成長できる関係

影山雅永(以下、影山):本日は、指導者派遣事業で赴いたマカオとシンガポールでの経験についてお話しいたします。マカオは品川区とほぼ同じ面積で、サッカー場は2面しかありません。そんな環境ではありますが、2006年にマカオ代表の監督に就任し、2年目には育成強化全体の責任者であるテクニカルチーフというポジションをいただきました。テクニカルチーフとしては、U-14代表チームを立ち上げるために各学校を回り、才能のある子どもを推薦してもらいトライアルを行ったり、コーチの勉強会をしたり、特に2年目は忙しいながらも非常に充実した時間を過ごせたと思います。

マカオで苦労したことは、大きく2つあります。1つ目は言語です。マカオの共通言語は広東語です。中国の標準語であるマンダリンの声調は4つであるのに対し、広東語は7つの声調があると言われていて非常に発音が難しかったです。そして、2つ目はW杯予選です。マカオがFIFAランキング182位とはいえ、予選にはもちろん参加します。ノックアウトシステムの初戦の相手はタイでした。2トップのスピードとテクニックが非常に高く、2人のセンターバックでは守れないので、スイーパーをつけました。ただ、タイのサイドはドリブルを武器にしていて、ボランチも攻撃参加してきます。アシスタントコーチと何回も打ち合わせをして、中盤にももう1枚増やした方がいいんじゃないかという風に考えていたら、我々は13人いないとタイの攻撃を止められないことに気がつきました。結果は惨敗でした。

話をする影山氏の写真

その後、2008年にマカオからシンガポールに活動の場を移し、U-16シンガポール代表監督として赴任しました。シンガポールは、アジアだけではなく世界における貿易、交通、金融の中心です。人口は560万人で、東京23区とほぼ同じ面積を持っています。公用語は英語ですが、人種としては中華系が74%、マレー系が14%を占めています。U-16代表は、選手の70%をマレー系の選手たちが占めていました。赤道直下のコスモポリタンシティにおいて、8か月後のAFC U-16選手権に向けて準備を始めました。時間がなく、このままでは太刀打ちできないと思い、負荷を上げて戦術も変更し、選手たちには何よりもハードワークを求めました。
しかし、1か月くらいすると選手がだんだんトレーニングに来なくなり、ついに5人しか来なくなってしまいました。いきなり日本から来た人にすべてを否定されたように感じた選手が、私に対して反乱を起こしたのです。私は選手に謝罪し、彼らのことを尊重することから再開し、少しずつ私の考えを伝えるようにしていきました。私は自分の私欲のために、誤った動機を持っていたのかもしれません。これは大きな反省でした。そして、10月にウズベキスタンでAFC U-16選手権が行われました。ちょうどその時期は、シンガポールで「0(オー)レベル」という国家試験あり、将来大学に進学希望の生徒たちは、この試験に合格する必要があります。チームからも6人がこの試験を受けてからウズベキスタンに合流することになり、彼らは初戦に間に合いませんでした。また、ウズベキスタンに入ってから、嘔吐、発熱、下痢を訴える選手が続出し、初戦にはベンチに1人しかサブの選手がいない状況で、結果は3戦全敗でした。

このように、言語、文化、歴史、常識の違う他国においての生活は、危機の連続でした。しかし、現地の友人たちは非常に友好的で、私をサポートしてくれ、日本のサッカー指導、システムを学ぼうとしてくれました。私にとってそれは救いでした。一方で私自身にも変化があり、小さなことにいちいち悩んだり苦しんだりしなくなってきました。これは決して良いことばかりではありませんが、物事をポジティブに捉えて対話を持って解決し、できることをとにかくやるようにマインドが変化したように思います。今考えると恥ずかしいことも多々ありましたが、それらも含めて自分自身の成長に繋がっており、現在のU-19日本代表監督としての仕事にも繋がっています。また、人との繋がりという点でも、マカオ、シンガポールの友人たちはもちろん、アジア予選や会議で出会った友人たちが、今や各国において要職を務めており、AFCユースパネルメンバーという、アジア全体の強化育成を行う場において、共に話し合いをする仲になっています。これは、今の私にとっての財産となっています。チャンスがあれば、再び海外にチャレンジしたいと思っています。

影山氏の資料画像「マカオとシンガポールでの経験について」

小野:我々は国際貢献と言っていますが、やはりその国が発展してくれることが我々の成長にも繋がりますね。その経験のおかげで、影山さんは現在U-19日本代表監督をやっています。彼の経験や成長を若い選手に還元していく、そんな循環をこれからも大事にしていきたいと思っています。続きまして、ベトナムでU-18、U-15の女子代表監督、そして女子のテクニカルアドバイザーを務めていらっしゃる井尻さんにお話を伺いたいと思います。

成長を続けるベトナムサッカー

井尻明(以下、井尻):ベトナムの面積は日本の約90%の大きさで、人口は年々増え続け、もうすぐ1憶人を超えると言われています。また、国民の平均年齢が31歳と若く、エネルギッシュな国だと言えます。経済成長率は世界の中でもトップクラスで、ハノイ、ホーチミンなどにはビルが建ち並んでいます。そんなベトナムは日本と密接な関係にあります。ベトナムに在留している日本人は約2万2千人で、その数も年々増えています。ベトナムの経済成長の大きな要因は諸外国からの投資ですが、日本からの投資が世界で一番多いという数字が出ています。日本からの企業も数多く進出しています。そんな中、2018年に行われた日越首脳会談の後に日越のサッカー協会同士が再びパートナーシップを結びました。両国の良好な関係は、先日菅総理大臣が初の外遊先にベトナムを選んだことからも良くわかると思います。
ベトナムのサッカー事情を説明します。数多くのJリーグクラブで監督をされていた三浦俊也さんが、数年前にベトナムの男子代表監督をされていました。続いてフィリップ・トルシエさんが、現在ベトナムU-19代表の監督をされています。トルシエさんは、ベトナムのPVFアカデミーの顧問もしています。PVFアカデミーとは、アジアでもトップクラスの施設を兼ね備えたアカデミーセンターです。国内のプロリーグも2000年から始まり、男子の代表チームはFIFAランク94位で、世界のトップとはまだまだ差があるという状況です。そんな男子代表チームの監督に、2017年に韓国のパク・ハンソさんが就任しました。パクさんは、2002年の日韓W杯で韓国代表のコーチをされていた方で、彼が監督になってからベトナムは東南アジアで素晴らしい成績を出しています。2019年のSEA Gamesでは、60年ぶりに優勝しました。2022年のW杯2次予選では、残り3試合を残して首位を走っています。先ほどFIFAランクが94位と言いましたが、5年前の2015年は153位だったので、数年で急成長していることがこの数字でわかると思います。国民のサッカーに対する関心も高く、大事な大会や試合の後には国中がお祭り騒ぎになります。今やパクさんは国民的ヒーローで、カリスマ的存在になっています。

話をする井尻氏の写真

女子サッカーはと言いますと、クラブは全部で6クラブしかありません。代表チームのFIFAランクは35位、アジアでは6位です。男子と同じで昨年のSEA Games で優勝(2連覇)しました。東南アジアのライバルはタイですが、ここ数年は勝ち越していて、東南アジアでトップを走っています。現在の目標は、2023年のW杯出場です。まだW杯に出たことはありませんが、今大会から出場枠が24か国から32か国に変わるので、現在FIFAランク35位のべトナムは、手を伸ばせばどうにか届く距離にあります。
昨年、タイで行われたAFC U-19女子選手権に監督として出場しました。私にとって、国際大会に監督として参加するのは初めてだったので、全てが良い経験となりました。初戦で開催国のタイに勝利し、力の差があった北朝鮮相手にどうにか3失点で凌ぎました。グループ最終戦はオーストラリアで、この時点で得失点差で1上回っていたので、引き分け以上でグループ突破だったのですが、残り数分で失点してしまい、残念ながら予選を突破することはできませんでした。しかし、ベトナムサッカー界でこの僅差の敗戦を非常に高く評価していただき、次のステップに繋がる有意義な大会になりました。タイではU-19日本女子代表の池田監督や、JFAから派遣されているTSG(テクニカルスタディーグループ)の山路さん、西入さんと会うことができ、色々な情報交換もできました。また、たまたま日本代表と同じホテルだったこともあり、選手のピッチ外での行動や立ち振る舞いなどを間近で見られたことも、いい刺激になりました。
文化や親の影響もあって、ベトナムの女子選手の多くがサッカーを始めるのは15歳頃です。そのため、現在行っているアカデミーは、15歳と16歳のカテゴリしかありません。私は、少しでも早くサッカーを始めてほしいという願いから、U-13の立ち上げを提案し、約300人の選手を全国各地で見て回りました。初めてボールを蹴る子も多く、裸足で参加していた選手もいました。このセレクションで約30名の選手を選考し、9月から活動を始めています。

井尻氏の資料画像「アカデミー U-13の立ち上げ」

私はサッカー文化発展の一助になっている使命感や、やりがいを持って日々活動できていると感じております。指導者として貴重な経験ができていますし、国際大会や代表監督など、日本ではなかなか経験できないことをベトナムの地で経験させてもらっています。文化が違う中で、指導方法や伝え方の工夫、またコミュニケーションを取るための語学など、日々自己研鑽ができていると感じております。

小野:井尻さんがベトナムでU-18、U-15代表チームだけではなく、かなり幅広い活動をされていることを改めて理解できました。そんな井尻さんの活動に対して、ベトナムサッカー協会専務理事のLe Hoai Anhさんからメッセージが届いています。

Le Hoai Anh:長年ベトナムと日本の両国間は、経済や社会のあらゆる分野において大変深い関係を築いてきました。ベトナムサッカー連盟も、日本サッカー協会との協力関係をさらにレベルアップさせたい気持ちでいます。2014年に東京で、日本の安倍晋三前首相とベトナムのグエン・スアン・フック首相の両首相の立ち合いのもと、両機関の間に覚書が締結されましたが、2018年にはさらにその期間が延長されました。その協力の枠組みによって、日本サッカー協会からベトナム代表やフットサルチームに対する専門的訓練のための支援を受けるとともに、日本人の指導者や専門家をベトナムに迎えています。井尻明監督もその一人です。井尻監督をはじめ、日本人指導者の皆さまの仕事に対する努力やプロ意識、さらに皆さまから学んだ専門知識によって、ベトナム人選手やコーチが能力を高めるうえで大変ポジティブな影響を受けており、これを高く評価しています。
日本のサッカーはアジアナンバー1、世界ランキングは28位です。コーチや選手を教育し訓練するための充実した広範囲なシステムを有しています。今後もベトナムに赴任する日本の専門家の力を借り、ベトナムの選手およびコーチの専門知識や能力が高まることを大いに期待しています。

話をするLe Hoai Anh氏の写真

小野:嬉しいメッセージですね。日本人スタッフの仕事に取り組む姿勢は、ベトナムだけでなく、他の国からも評価されており、「自分の国の指導者にも、こうした日本人の姿勢を植え付けていきたい」という言葉を聞くことがあります。ここからは、現在モンゴルのU-18、U-15女子の代表チームを率いています河本菜穂子さんに加わっていただき、4人でディスカッションをしていきたいと思います。 まずは、モンゴルの選手たちの様子について教えてください。

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