ASIA center | JAPAN FOUNDATION

国際交流基金アジアセンターは国の枠を超えて、
心と心がふれあう文化交流事業を行い、アジアの豊かな未来を創造します。

MENU

シャンカル・ヴェンカテーシュワラン――インド・ケーララから世界を眼差す

Interview / Asia Hundreds

最新作『犯罪部族法』について

内野:そうですか。すべてをそこに注ぎ込んでいるわけですね。2019年1月にシャンカルさんの作品が日本で公開されると聞いていますが……。*14

*14 京都・東京公演についてはページ最後のお知らせをご覧ください。

シャンカル:ええ。『犯罪部族法Criminal Tribes Act』です。

内野:どのような内容ですか?

シャンカル:これは英国による法律の名称です。1871年に制定された法律ですが、それ以前から英国はさまざまな法令をインドで施行しています。1857年に初の民族的独立運動となるインド大反乱が発生したとき、英国はインドには全く別の顔が存在することに気付いたのです。英国は封建制度下の裕福な特権階級のみとやり取りしていました。英国の目には、そうした特権階級しか映っていなかったのです。しかし、周縁にいる人びとから強い主張が向けられたとき、英国はインドの全く別の面に対処しなければならないことを認識したのです。そこで、一連の法令を施行し始め、1871年に、この犯罪部族法(Criminal Tribes Act)が制定されました。この法律は、インドにはカースト制があるために、大工や金細工職人、木こりなど、すべての職業にコミュニティがあることを前提としています。

それならば、犯罪者のカーストも必要だとでも考えたのでしょうか。この法律により、約150のコミュニティが犯罪部族として指定されました。犯罪部落指定の理由は、こうした部落の人々はカーストにより犯罪者になることが運命付けられていたため、太古の昔から犯罪者であるというものです。しかも、これを止めるには、こうした血を根絶する以外に方法がないというのです。こうしたコミュニティを意味もなく選択し、犯罪者のレッテルを貼り、隔離するために、この犯罪部族法が制定されたわけです。そして、その偏見と排他意識は今日に至るまで受け継がれています。

内野:これは、カースト制度を悪用してインドを統制しようとする英国の陰謀のようなものですよね? 英国はこれを意図的に実施したのですね。

シャンカル:ヒンドゥー教の構造と容易にぴったり適合するでしょう。ヒンドゥー教により、何世紀にもわたって古い階層とカースト制度が合法化・正当化されてきたのですから。犯罪部族の中で生まれれば、自動的に犯罪者になるのです。

内野:この作品にはご自身の劇団の俳優を使われたのですか?

舞台作品の写真
『犯罪部族法』
写真:©Zürcher Theater Spektakel/Christian Altorfer

シャンカル:ええ。劇団の俳優二人にお願いしました。両者とも『水の駅』に出演しています。一人はカルナータカ州出身のチャンドル、もう一人はデリー出身のアニルドゥです。アニルドゥは夫の役を演じ、二人の男が登場する場面でチャンドルが相手の男性を演じました。チューリヒのフェスティバル「Zürcher Theater Spektakel」のサンドロ・ルーニン氏から、短編で手軽に持ってこられる作品を作らないかとの提案をいただきました。もちろん、やります、と応えました。この二人は私が最も信頼している俳優です。そして、部族の構成の歴史や起源を調べているうちに、この法律の作品に行き着いたのです。この二人の俳優たちに連絡して、同氏からの提案について話しました。私はこの作品を制作することに興味があるので、この二人が同意すれば制作を開始できると伝えました。私たちには共通の言語がありません。チャンドルはカンナダ語を、ルーディ(アニルドゥ)は英語を話します。私は英語を話せるし、カンナダ語も片言なら話すことができます。こうして、私たちは話し合い、この30分の作品を仕上げたのです。

内野:初演はチューリヒですか?

シャンカル:チューリッヒで初演を行いました。次に、ミュンヘンで上演しました。先月、ボンベイでもこの作品を発表しました。

内野:演劇祭ですか? それとも単独で劇場上演したのですか?

シャンカル:ミュンヘンでは、国際舞台芸術祭「シュピールアート」で上演しました。ボンベイでは、その劇団が企画した単独公演でした。最初は25分の作品だったのですが、それが30分になり、35分になり、現在は約38分の作品になっています。今後もっと発展させていきたいと思っています。

内野:どうもありがとうございました。日本でシャンカルさんの作品を拝見するのを楽しみにしています。

シャンカル:ありがとうございます。

インタビューを終えたシャンカル・ヴェンカテーシュワラン氏と内野 儀氏の写真

【2018年2月10日、BankART Studio NYK ライブラリにて】

【参考情報】

THEATRE ROOTS & WINGS(シャンカル・ヴェンカテーシュワラン氏主宰の劇団)

京都造形芸術大学舞台芸術研究センター

フェスティバル・シュピールアート(ミュンヘン)での上演情報(2017年11月)

【お知らせ】

シャンカル・ヴェンカテーシュワラン氏演出作品『犯罪部族法』は2019年1月、京都と東京で上演される予定です。

京都公演

  • 日時:2019年1月13日(日曜日)・14日(月曜日・祝日) 両日とも午後3時開演
  • 場所:京都芸術劇場 studio21(京都造形芸術大学内)
  • 主催: 京都造形芸術大学(舞台芸術作品の創造・受容のための領域横断的・実践的研究拠点)2018年度 共同研究プロジェクト(研究代表者 山田せつ子)
  • お問合せ:京都造形芸術大学舞台芸術研究センター
    TEL:075-791-9437、京都市左京区北白川瓜生山2-116

京都造形芸術大学舞台芸術研究センター

東京公演

  • 日時:2019年1月19日(土曜日)午後3時開演、20日(日曜日)午後1時開演
  • 場所:港区立男女平等参画センター リーブラ、リーブラホール
  • 主催:シアターコモンズ実行委員会
  • お問合せ:シアターコモンズ実行委員会
    URL:http://theatercommons.tokyo/
    E-mail:artscommons.tokyo.inquiry@gmail.com

インタビュアー:内野 儀(うちの ただし)
1957年京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了(米文学)。博士(学術)。岡山大学講師、明治大学助教授、東京大学教授を経て、2017年4月より学習院女子大学教授。専門は表象文化論(日米現代演劇)。著書に『メロドラマの逆襲―〈私演劇〉の80年代』(勁草書房、1996年)、『メロドラマからパフォーマンスへ―20世紀アメリカ演劇論』(東京大学出版会、2001年)、『Crucible Bodies: Postwar Japanese Performance from Brecht to the New Millennium』(Seagull Press、2009年)、『「J演劇」の場所―トランスナショナルな移動性(モビリティ)へ』(東京大学出版会、2016年)ほか。公益財団法人セゾン文化財団評議員、アーツカウンシル東京ボード委員、公益財団法人神奈川芸術文化財団理事、福岡アジア文化賞選考委員(芸術・文化賞)、ZUNI Icosahedron Artistic Advisory Committee委員(香港)。TDR誌(The MIT Press)の編集協力委員。

インタビュー撮影:山本尚明