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シャリファ・アマニ――ヤスミン・アフマドがいた時代:マレーシア映画のニューウェーブ

Interview / Asia Hundreds

『細い目』のオーキッドとジェイソン

シャリファ:『細い目』でジェイソン役のン・チューセンとオーキッド役の私がどのようにキャスティングされたか、お話しましょう。最初のミーティングの後、オーキッド役は私に決まったと聞きましたが、何の手違いか急に連絡が来なくなりました。その後、ヤスミンが電話で「なぜ、プロダクションの電話に出ないの? あなたがリハーサルに来ないなら、別の子に役を代わってもらうわ」と言いました。私はムッとして「私の役です」と言いました。指定の場所に行くと、私に似た容姿の少女が数名と中華系の少年が数名いました。私はバジュ・クルンにスニーカーという姿で参加しましたが、もちろん他にこのような恰好の少女はいませんでした。しばらくしてヤスミンがやってきて、私の耳元で「あなたのジェイソンは誰?」とささやきました。私は部屋を見回し、「チューセン」と伝えました。彼は物静かで目立とうとせず、明らかに居心地が悪そうでしたが、ハンサムで好感が持てました。後日、チューセンが教えてくれたのですが、彼にもヤスミンが耳元で「あなたのオーキッドは誰?」とささやいたそうです。彼は私を選んでくれました。その後すぐ2人だけで初めてのリハーサルをしました。その頃の写真を今も持っています。

写真
映画『細い目』の撮影をしていた頃のシャリファ・アマニとン・チューセン
写真提供:シャリファ・アマニ

シャリファ:どうです、とても巧妙だと思いませんか。私たちはお互いに選び合ったのです。ラブ・ストーリーですから、本当に気の利いたキャスティングでした。互いに惹かれている2人がいれば、演技の半分は完成したも同然です。2人を一緒にその部屋で過ごさせ、カメラを置いて、気まずい瞬間を捉えるのです。演じる必要はありません。私はこれがヤスミンの強みの一つだと思います。俳優を深く知り、巧みに操り、手中に収めるのです。このようにして、私たちはジェイソンとオーキッドの役を手に入れました。

写真
映画『細い目』撮影時のヤスミン・アフマドとシャリファ・アマニ
写真提供:シャリファ・アマニ

石坂:『細い目』は初めて日本に紹介されたヤスミン作品です。2005年の第18回東京国際映画祭(TIFF)で、私はアジア映画研究家の松岡環さんと映画評論家の江戸木純さんとともに、審査員を務めました。審査に要した時間はたった5分で、満場一致で『細い目』が選ばれました。スペシャル・メンションはエリック・クーの『一緒にいて』でした。この作品も傑作です。もし『細い目』が別の年に出品されていたら、エリックが最優秀アジア映画賞を受賞していたでしょう。こうして最優秀賞はマレーシアへ、二番手の賞はシンガポールに送られたのです。これはTIFFの歴史の中でかなり珍しいケースで、授賞式では観客がとても驚いていました。

同世代の映画人との交流

石坂:エドモンド監督とアマニさんの出会いはどのようなものでしたか?

エドモンド:私とアマニが初めて会ったのは2014年、第27回TIFFでした。私は『破裂するドリアンの河の記憶』の監督として、彼女は『ノヴァ~UFOを探して』のゲストとして参加しました。

シャリファ:私たちは当時からお互いをサポートしていましたね。映画祭会場に着いた瞬間、気持ちが引き締まり、まっすぐ皆でエドモンドの監督作の上映へ向かいました。本当に素晴らしかった。マレーシア人は海外では賑やかですぐ仲良くなるんです。マレーシアに戻ると、おとなしくなるみたいですけれど(笑)。
映画祭のプレスルームでは、アジアの映画人と互いに同じように抱えている問題を語り合いました。マレーシアの映画人は、商業と芸術のバランス感覚をまだうまく持ち合わせていません。だからいろいろな映画人の話はとても刺激的で、興味深いものでした。それまで映画祭にゲストとして行くときは、いつもヤスミンと一緒でお姫様気分でした。しかし『ノヴァ』の代表としてTIFFに参加したときは、私より若い映画人もいましたし、パーティなどでは積極的に人と会い、挨拶するようにしました。今も他の映画祭に出かけると、そのとき知り合った人たちに会うことができます。

映画のスチル画像
(C)Greenlight Pictures (C)Indie
エドモンド・ヨウ『破裂するドリアンの河の記憶』(スチル)2014年

この2014年は、ビアンカ・バルブエナとブラッドリー・リュウ監督に出会った重要な年でもありました。ビアンカは若く、とても優秀なフィリピン人のプロデューサーで、ラヴ・ディアス監督作品など、素晴らしい仕事を多く手掛けています。

石坂:ビアンカを始めとして東南アジアの女性プロデューサーは、とても若く有能ですね。

シャリファ:インドネシアのララ・ティモシーも非常に優秀なプロデューサーです。第26回シンガポール国際映画祭で、ララと『見習い』のブー・ユンファン監督、私の3人で短編映画部門の審査員をしました。審査で話し合ううちに感性が似ていることが分かり、とても嬉しかった。なぜなら審査というのは、とても主観的だからです。最終的にこれこそ私たちが未来の東南アジアから出てきてほしい映画だという、共通の作品にたどり着きました。ルッキー・クスワンディの『虎の威を借る狐』です。英語のタイトル『The Fox Exploits The Tiger's Might』が長いのですが、インドネシアの素晴らしい作品です。

映画のスチル画像
ルッキー・クスワンディ『虎の威を借る狐』(スチル)2015年

エドモンド:作品の尺よりも長いタイトルです(笑)。

シャリファ:この作品では、中華系のマイノリティの少年、軍隊、一般市民、そして同性愛が取り上げられていますが、物語の中で直接的に語られることはありません。あくまで2人の少年の友情物語なのです。しかしこの作品を観ると、「インドネシアではこんな映画が作れるなんて! マレーシアではとてもムリだ」と思うでしょう。このようにお互いの作品から学ぶことは、とても楽しいことです。