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国際交流基金アジアセンターは、アジアの人々の間に共感や
共生の心を育むため、様々な分野で文化交流事業を実施しています。

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アシル・アフマッド――テクノロジーとリバースイノベーションで世界の貧困に立ち向かう

Symposium / Asia Hundreds


ASIA HUNDREDS(アジア・ハンドレッズ)」は、国際交流基金アジアセンターの文化事業に参画するアーティストなどのプロフェッショナルを、インタビューや講演会を通して紹介するシリーズです。 文化・芸術のキーパーソンたちのことばを日英両言語で発信し、アジアの「いま」をアーカイブすることで、アジア域内における文化交流の更なる活性化を目指しています。

九州大学のアシルです。平日は九州大学で教鞭を取る一方、週末はグラミン・コミュニケーションズという会社で、ディレクターを務めています。

私はコンピューターサイエンスと情報通信技術が専門です。前職のNTTコミュニケーションズでは、情報通信技術を使って様々な製品を作りましたが、当時2006年のインターネットアクセス人口は13.6パーセントで、一生懸命に技術を開発しても、本当に世界の数パーセントの人にしか届かないという事実に気付きました。ちょうどグラミン銀行*1 のユヌス先生*2 が2006年にノーベル賞を受賞するのですが、同年ユヌス先生に東京でお会いし、その次の日にNTTをやめて、バングラデシュに行くことにしました。もう少し自分たちで作った技術をより多くの人々に使ってもらうように技術開発をしたいなという思いがあり、結果的に九州大学とグラミンに所属することになりました。

*1 マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした比較的低金利の無担保融資を主に農村部で行っているバングラデシュの銀行 GRAMEEN BANK

*2 ムハンマド・ユヌス博士:グラミン銀行の創設者、2006年ノーベル平和賞受賞。

正しい情報を必要な場所に届けたい

現在世界の人口が75億人で、その約半分の人が未だ貧困層にあり、7分の1の人が読み書きができません。そして、毎年下痢によって150万人の子どもが亡くなっています。150万人を365日で割ると、1日当たり約4000人の子供が下痢で亡くなっているという現状です。WHOの調べによると、国別ではインドが一番多くて、1日1500人が下痢で亡くなっています。下痢の薬はすでに何十年も前から作られていて、価格も高価ではありません。しかし、なぜこれだけの数の人が犠牲になるのか。そこで、WHOが子どもたちの母親に下痢になった際の対処法を調査したところ、35パーセントの母親は水分を与えないと答えたそうです。なぜなら、水分を与えるとさらに下痢がひどくなると考えているためです。

資料1

この調査の結果から、亡くなる理由はお金の問題でも、技術の問題でもないことが分かりました。正しい情報が、必要な場所にないということが問題の本質だと思っています。そうするとこれは誰の仕事かというと、私たち情報通信技術屋さんの仕事であると考え、そこに私の役割があると思い、途上国へ勉強しに行きました。

インフラとしての携帯電話

今世界の人口は75億人ですが、全世界で使用されている携帯電話の数は60億個にもなります。つまり各家庭で約1台は携帯電話があるという状況です。途上国でも、皆さん携帯電話を持っています。これはものすごく大きなネットワークで、このぐらいの規模でのネットワークでインフラが出来上がっているっていうことは、情報をいかに作って、正しいところに伝えるかというのがこれからの課題になります。そのような中で、今スマートフォンの数もものすごく増えてきて、世界で使用されている携帯電話のうち、約50パーセントがスマートフォンだそうです。

途上国と先進国の情報通信技術へのアプローチの違いが、先進国の方はいかに今のインフラをICT*3 を使ってより効率的に使うかというかというアプローチですが、途上国では、インフラがなかったので、まず携帯電話がインフラの元になって、その上でいかにソーシャルサービスを作るかを考えます。そこが根本的な違いです。そうすると金融、教育、ヘルスケア、医療などの分野で革新的な様々な考え方が途上国の方で生まれます。
これはバングラデシュの例ですが、バングラデシュは日本の人口の115パーセントの人口がいるので、実は日本よりもバングラデシュで使用されている携帯電話の個数は多いのです。このぐらいの携帯電話はどこにでも存在してきている、つまり大きなインフラができているということなのです。

*3 情報通信技術

資料2

世界の人口増加と富の集中

現在世界の人口は75億人といいましたが、最初の10憶人に到達したのが1800年です。それから10億人増えて、20億人になったのが1920年です。120年後です。それで、1920年から2020年、これでまた50億。そうすると、大体平均的に12年ごとに10億人ぐらい増加しています。それで、どこに人口が増えていくかというと、先進国ではなく途上国です。それで、これは経済ピラミッドと言いますが、1日5ドル以下で生活している人の数が40億人で、69パーセントです。今後人口が多くなるのが、このBoP(Base of the Economic Pyramid)層*4 と呼ばれる層です。この層に人口が最も増えてきて、元々いろんな社会課題が関わっているところに、さらに人口が増えていくと、社会課題は増大します。

*4 経済ピラミッドの底辺層

資料3

もう一つの問題が、富の集中の問題です。世界の富というのが今9000億 USドルと考えると、50パーセントはたった数人の人が所有しています。その流れを見てみると皆さん驚かれると思いますが、2010年に50パーセントの富を持っていたのは388人、2016年では62人、そして2017年では8人です。つまり、たった8人が世界の富の半分を保有しているということなのです。このような急激なお金の流れを止めることは難しいかも知れませんが、そのスピードを遅らせる努力をしなければなりません。

資料4
資料5

リバースイノベーションを起こす

最後に皆さんに紹介したいキーワードは、リバースイノベーションです。グラミン銀行のように、途上国でコンセプトが開発され、そのコンセプトが認証されて、その後先進国に取り入れられる。このイノベーションのことをリバースイノベーションと言います。

グラミン銀行はどのような仕組みで動いているかというと、村で様々なツールを使い、製品を作って売り、その売り上げでグラミン銀行に利子を返していくという仕組みです。このような仕組みの中で人々は貧困層から次第に脱却していきます。このグラミン銀行の考え方が、まずインドへ行き、その後アフリカへ行き、そしてアメリカでも取り入れられました。実は昨年日本にもグラミン日本*5 ができました。つまり、途上国から先進国へと取り入れられていったのです。先進国の貧困層はなかなか視覚化されませんが、実際は数で見ると先進国にも貧困層は存在します。これはリバースイノベーションの一例です。
私たち九州大学では2007年から始めた共同研究へテクノロジーという特性を入れました。それでどんなことを作ったかいうと、まずトヨタと一緒にGramCarという新しいカーシェアリングのモデルを作りました。Gramというのはビレッジという意味です。その後、GramHealthというヘルスケアの分野、GramAgriという農業の分野、GramWebという情報のプラットフォームの構築などのモデルを作りました。

*5 2018年度にグラミン日本が創設された。

ここでは、GramHealthの話をしたいと思います。GramHealthは無医村の村に遠隔医療システムを作るというモデルです。一つの箱に病院の機能を全部入れました。センサーセットで、グラムヘルスケアワーカーが検診をし、その情報をインターネットで遠隔にいる医師に送ります。遠隔にいる医師がその情報を見て、処方箋を書くのですが、その処方箋を、そのヘルスケアワーカーが皆さんに見せるんですね。ここでアーティフィシャル・インテリジェンス(AI)*6 を使って患者を色分けします。赤に色分けされた人だけが医師と相談します。医師と相談して、医師からの処方箋ができたら、それを自分で印刷します。このようにして、病院のあらゆる機能をひとつの箱で行うことができます。データを見てみると、60パーセントの仕事をヘルスケアワーカーとソフトとシステムを使って運用することが出来ます。医師は最後にだけ登場します。ポータブルヘルスクリニックを利用して、社会起業家を創出できます。これはバングラデシュから始まって、今インド、パキスタン、カンボジア、タイに展開しています。実は同じポータブルヘルスクリニックを日本でも活用できないかということで、調査をしております。コミュニティでデータを作り、コミュニティの中でお金を回して、コミュニティの中でデータのプラットフォームを作れれば、さまざまに応用ができると考えています。これが私たちが目指しているリバースイノベーションの姿です。ありがとうございました。

*6 人口知能

資料6

【お知らせ】

アシル・アフマッド氏がご登壇されるソーシャルビジネスに関する国際会議が下記の要領にて開催されます。

日程:2019年11月19日(火曜日)~21日(木曜日)
会場:九州大学医学部 百年講堂
申込などの詳細は下記ページをご参照ください。
http://conf.gramweb.net/


ソーシャル・イノベーション人材交流プログラム(SOIL)とは
国際交流基金アジアセンターでは、日本とアセアン地域が抱える社会課題に対し、各国で共通課題に取り組みソーシャルセクター(NPO、社会的企業)や社会起業家間の交流事業を実施することで、各セクターが事業モデルや解決策についてノウハウを共有・移転し、それぞれの国での社会課題を効率・効果的に解決を促すようなネットワーク構築を目指す「ソーシャル・イノベーション人材交流プログラム(SOIL)」を実施しています。本シンポジウムは、SOIL事業の一環として開催されました。

アジアにおけるソーシャル・イノベーション人材交流プログラム(SOIL)