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国際交流基金アジアセンターは、アジアの人々の間に共感や
共生の心を育むため、様々な分野で文化交流事業を実施しています。

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国際フォーラム「Innovative City Forum 2019 アジアセンターセッション」開催レポート

Symposium / Innovative City Forum 2019 国際交流基金アジアセンターセッション

登壇者のプロフィール詳細は下記ページをご覧ください。
Innovative City Forum 2019 国際交流基金アジアセンターセッション

アジアセンターセッション挨拶/柄 博子(国際交流基金理事)

アジアセンター・セッションでは、「Reverse IDEA ~アジアのダイナミズムから『新たな座標軸』を探る~」にテーマを設定いたしました。アジアの多様性の中には、普段私たちが考えている常識や固定観念、時に偏見といったものを、逆転、ないしはひっくり返してゆく可能性を秘めた様々なアイデアに満ち溢れていて、それが、これからの私たちの生活を豊かにするための大きなヒントになってゆくものと信じております。
このセッションでは、まず皆様の頭の中の座標軸を真っ白にリセットしていただき、五感を研ぎすませて、これからご登壇されるスピーカーの方々のプレゼンテーションをお楽しみいただければと思います。

アンドレア・ポンピリオさんの写真
モデレーター紹介:アンドレア・ポンピリオ

基調講演「現代イスラム・ファッションの革新」/アリア・カーン

Islamic Fashion & Design Council(IFDC)のアリア・カーン代表に、日本ではまだあまり知られていないイスラムファッションが牽引する世界的なネットワークと、その背後にあるイスラムの教義をもとにしている「Modest Fashion(モデストファッション)」についてお話しいただきました。話を通じて、ムスリムの方々の外装的な特徴だけでなく、その根底にある考え方には日本と通じるところがあるとわかり、興味深いセッションとなりました。

アリア・カーンさんの写真1
アリア・カーンさんの写真2

アリア・カーン:アッサラーム・アライクム(皆様に平和を!)。私からは、革新が起きているイスラムファッションについてお話ししたいと思います。現在、世界では「Modest Fashion(モデストファッション)」という新しい産業が台頭しています。その需要の大部分を支えているのは世界中のムスリムの女性たちです。そしてそこでは、世界で最も「Modest(控えめな、慎み深い)」と言われる革命が起きています。イスラムの信仰に基づいたモデストなライフスタイルやファッションは、私たちがさまざまなプロジェクトを実行する中で世界へと門戸が開かれ、今や自然な形で世界中に存在しているのです。これらはイスラム教徒の見え方を「リ・ブランディング」することにも繋がっています。

イスラムを信仰するムスリムの女性達が身に纏う、体の線や肌の露出を控えたモデストファッションは、抑圧されて着ているわけではなく、むしろ主体的に着用しています。モデストファッションの背景には、イスラムの教えである「コーラン」の教義があります。一例をあげると、ヒジャブというのは、スカーフなどで身体を覆うだけではなく、「頭のヒジャブ」「目のヒジャブ」「舌のヒジャブ」、そして「心のヒジャブ」「物理的なヒジャブ」などの概念があり、その土台には、モラルが低下するものから距離を置くということがあります。例えば、「目のヒジャブ」は暴力的で邪悪な画像をみないこと、「舌のヒジャブ」は他人の悪口を言わないことなどを指しています。「覆う」という行為は、社会から私たちの尊厳を守る、また保護するという価値観に基づいています。

今や世界のムスリムは18億人を超え、ファッションの消費額は年間約3千億ドル(33兆円)の規模になると私たちは分析しています。ムスリムの影響力は、商業や産業にとどまらず、政治的・経済的にも世界的な規模で軽視出来なくなっており、「第3の場・第3の世界」と呼ばれ始めています。
世俗的な価値から解放され、洗練された奥ゆかしさを内包するファッションや商品・落ち着いた行動は、ムスリムとしての私たちの在り方が問われていると感じます。それゆえ、より社会的なモラルを重んじる優れた物事を選ぶようになっています。

Modest(控えめ・慎み深いこと)」はイスラムの概念で、私たちの根幹を為す非常に大切な哲学です。わたしたちは、これからもIFDCの活動を通じて「Islamophobia(イスラム恐怖症)」に屈することなく進み続け、Modestな文化や価値観・信仰を伝えていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

「現代イスラム・ファッションの革新」(イントロダクション含む約27分)

【芸術/ART】からの提案「廃棄から復活へ ~テクノロジーの供養と転生の祝祭~」/和田 永

「芸術」セッションでは、和田永氏に、これまでのアートや音楽分野での活動とその元になったアイデアについて語っていただきました。アジアで見かける街角の「修繕店」が和田氏の目には「楽器店」に映るという話や、世界をまわるライブの模様も紹介され、電子に囲まれた世界を面白そうに語るトークに客席は笑いに包まれ、和田氏のプレゼンに魅了されたひと時でした。

和田 永さんの写真1
和田 永さんの写真2

和田永:僕は電子機器に囲まれた日本で暮らし、ブラウン管のテレビ画面が放つ砂嵐を眺めているうちに、幼少時にインドネシアで出会った「ガルーダ」という鳥の姿をした神様がテレビの砂嵐の向こうに住んでいるのではないかという妄想が広がりました。テレビ画面の奥には得体の知れない世界が広がっているという学生時代のアイデアから、「電気・電波・電子・電磁」の面白さに取りつかれ、廃棄される家電は、実はまだ非日常との通信装置として生きていて価値があるのではないか?と思いました。ここ数年は役割を終えた家電を電子楽器として蘇生させる合奏プロジェクト「ELECTRONICOS FANTASTICOS!」を実践しています。また、大量消費の時代が終わりつつある今、多様な人々を巻き込み新たに「奇祭」を立ち上げる試みも行っています。今後は「国境無き電磁楽団」というものを作ってみたいと考えています。「固定のメンバーを持たず、既存の楽器を使わず、世界各地の人々が古い生活家電を材料に、クリエイティヴな手法で楽器をつくるところから始まる電磁オーケストラ」です。現在は日本を拠点にしていますが、将来ぜひアジアから新しい音楽の可能性を探っていきたいと思っています。

「廃棄から復活へ~テクノロジーの供養と転生の祝祭~」(約16分)

【医術/Medical Care】からの提案1「アジアの哲学~東洋的な全体性から心身を捉えなおす~」/稲葉 俊郎

「医術」セッション1では、稲葉俊郎氏に「アジア-東洋の身体観」について語っていただきました。「全体の中に部分があり、部分の中に全体が宿る」という提示を皮切りに、西洋や東洋の意識の差など医術以外の領域を含めて、新しい養生所づくりを目指す稲葉氏の壮大なスケールでトークが展開していきました。

稲葉 俊郎さんの写真1
稲葉 俊郎さんの写真2

稲葉俊郎:今から約2億年前にパンゲア大陸が分裂したことにより、地球に国と国境が生まれ、日本列島もその一つとして誕生しました。人間の身体も一つの受精卵が分裂して60兆個の細胞に分かれました。人体の細胞一つが一人の人間だとすると、60兆とは、地球7千個分の人間を体の中に生まれながら抱えていることと同じです。東洋では「身心一如」と呼ばれますが、体(身)と心は表裏一体の一つのもので分けることができず、身心という内なる自然と外なる自然とが呼応しあい、体や心、そして生命という全体性を成立させています。
世阿弥の書いた能楽論『風姿花伝』は口伝で、明治期に初めて世に出ました。僕はこの内容を読んだときに、「医療そのものじゃないか」と思いました。なぜなら心身の知恵を、医術ではなく芸術へと変換させ、全てにつながる「道」へ昇華したのが藝道の本質だと受け取ったからです。大乗仏教に「インドラの網」という言葉があります。宝珠が網の目として全てつながり、ひとつひとつの宝珠の鏡面にも網の目全体が映し出されています。このイメージは、私たちの身体観に近いと思います。「私たちのすべての細胞に自然の来歴と叡智が含まれている」と私は感じます。医療も芸術も、生命の全体性を取り戻すプロセスと考えれば本質は同じです。これまでに述べたことも、アジアの身体観の智慧として自然に受け継がれてきたのだと思います。

「アジアの哲学~東洋的な全体性から心身を捉えなおす~」(約16分)

【医術/Medical Care】からの提案2「JAMU~自然医学の力を解き放つ~」/マンゲストゥティ・アギル

「医術」セッション2では、インドネシアで古くから親しまれる「JAMU(ジャムウ)」という健康飲料を基に、昨今見直されつつある未病対策についての先人の知恵など、人々が古くから変わらず望み続けている不老長寿についてのインドネシア版のヒントをお聞かせいただきました。

マンゲストゥティ・アギルさんの写真1
マンゲストゥティ・アギルさんの写真2

マンゲストゥティ・アギル: 私はインドネシアの大学で薬用植物学、生薬学、伝統医学などを教えております。本日は、インドネシアで長年親しまれている健康飲料「JAMU(ジャムウ)」を例に、その背後にあるインドネシアやアジアの概念と哲学や体と心のつながりについてお話ししたいと思います。インドネシア国内は、400の民族が全土にひろがっていて、ジャムウには1700ものレシピが存在します。そもそもジャムウはかつて中部ジャワに存在した有名な王室の熱心なヒーラー(治療家)たちによって生み出されました。彼らが王室の健康のために一生懸命研究を重ね、瞑想や断食などあらゆる手段を試した結果、ジャムウは生まれました。治療家たちによると、ただジャムウなどの健康飲料を摂取するだけでなく、心身ともに健康的な暮らしを営むという2つの要素が健康長寿にとって大切だとされました。その後、王室外の人々、一般庶民も王室の健康の理由を知りたがり、ジャムウは民間にも普及していきました。私はジャムウについての研究を進めるうちに、人が調和的、平和的、そして健康的に生きるにあたって大切なのは、人と人を取り巻く周囲とのバランスであると気づきました。現代において「未病対策」と呼ばれることが、ジャワには昔から伝わっていました。近年改めて見直されつつあるジャムウは、我々にとって健康の資産なのです。今、インドネシアの大学生など若い世代はジャムウについて学び直しています。彼らはジャムウを通じて基本的な哲学、医療の概念について、薬理作用、容量や用法、副作用など調合の技術などを学んでいます。これはまさしくアジア医学の応用であり、「心と身体と精神の全体に効くこと」を見直し、次世代に伝えていくというイノベーションです。ジャムウの哲学である「Balance of LIFE(調和がとれた人生)」がアジア的な健やかな心身でいる秘訣とお伝えして終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

「JAMU~自然医学の力を解き放つ~」(約16分)