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Visual Documentary Project 2018 上映・トークイベント開催レポート

Report / Visual Documentary Project 2018

上映会の前半では、各作品の上映の後に監督および作品関係者による挨拶と、京都大学東南アジア地域研究研究所の山本博之准教授による作品解説を行った。(各作品の詳細および登壇者のプロフィールはVisual Documentary Project 2018小冊子PDFを参照)

カンボジアの伝統的なバサック劇の現状を描く『カンボジア・シアター』

監督:ソペアク・ムァン(カンボジア)

ドキュメンタリー作品『カンボジア・シアター』一場面の画像
『カンボジア・シアター』2016
作品解説で語る監督の写真
ソペアク・ムアン氏
写真:佐藤 基

はじめに、衰退しつつあるカンボジアの伝統的なバサック劇の現状を描いた『カンボジア・シアター』が上映され、上映後監督のソペアク・ムァン氏が登壇した。「幼い頃テレビはありましたが、それほど普及はしていませんでした。代わりに皆でバサック劇を観ることが幼い頃の楽しみでした。バサック劇を通して私達はカンボジアの昔話などを覚えるなど、宝物のような経験をしました。誰かが覚えておくよう努力をしないと文化は廃れてしまいます。若い世代もバサック劇に注目し、そこに文化のルーツがあることをぜひ知ってほしいと思いました。今ではなかなかバサック劇に興味を持ってくれる人はいませんし、無料だったとしても観にきてくれる人は少ないです。ラストシーンでは大勢の方々が観にきている様子でしたが、ほとんどが高齢者です。バサック劇は野外で行うため乾季の間しかできないにもかかわらず、今は気候が変化していることもあり、乾季でも雨が降ることもあります。雨が降ると一時上演を中断しないといけず、観客が最後まで残って観てくれないこともあり、役者にとってもバサック劇の実情は芳しくありません。」と語った。

山本博之准教授による解説

山本博之准教授の写真

カンボジアのバサック劇はバサック地方から発生した劇ですが、実はバサック地方はカンボジアではなくベトナムにあります。もともとバサック地方にはカンボジア人が多く住んでいて、そこで行われていたカンボジア劇にベトナムと中国の影響が入って出来たのがバサック劇です。1930年代頃にカンボジアに紹介されて人気になりました。外来といえば外来であり、新しいといえば新しいともいえるこのバサック劇を、作品の中で若い女性が「私たちの伝統を表していていいなと思った。」と言っているのが印象的でした。この作品はバサック劇が衰退していくのが気がかりだというお話です。ラストシーンは、雨が降る中、劇ができない役者たちが寝ている場面でした。カンボジアには雨季と乾季があり、雨季になると仕事を休み、雨があがったらまた仕事に戻ります。雨が降ったら必ず晴れる。人生も同じですが、止まない雨はないのです。今はバサック劇が停滞しているように見えても、きっとまた以前の活気を取り戻すんだというメッセージがあるように感じられました。

コスプレに励む15歳の少女リトの日常を描く『リトリト』

監督:エン・ゴック・タオ・リ(ベトナム)

ドキュメンタリー作品『リトリト』 一場面の画像
『リトリト』2015
作品解説で語る監督の写真
グエン・ゴック・タオ・リ氏
写真:佐藤 基

ベトナムのハノイで日々コスプレに励む15歳の少女リトの日常を描く『リトリト』が上映され、監督のグエン・ゴック・タオ・リ氏が登壇した。「私自身もコスプレイヤーです。コスプレ文化はかなり前からベトナムに入ってきていますが、未だに根強い批判や偏見があります。しかし、若者にとってコスプレは自己肯定感を持つことができ、自己発見ができる良い一面のある一つの文化ではないかと思っています。私自身もコスプレイベントに参加した際、親の猛反対でほとんど家から出られなかったことが度々ありましたが、リトの直面している困難さは私のそれとは比べ物にならないほど酷く、ぜひ彼女を取り上げてコスプレイヤーの困難や原因を発信していきたいと思いました。また、学校でのいじめなどで問題を抱えている若者は、現実逃避するためにベトナムでなく外国から輸入してくる文化に頼っているわけですが、外国の流行り、日本のアニメは、若者たちにとっての救いの手になり得るのでしょうか。もしそうだとすればベトナムのこれまで培ってきた文化は若者の役には立たないということになるのか問いかけたいと思います。」と語った。

山本博之准教授による解説

主人公の本名は「リト」ではありませんが、周りからリトと呼ばれていて、自分でもそう名乗っています。リトというのは、最近のベトナムの若者の間で日本のアニメのキャラクターをもとにコスプレ等を通じて流行っている呼び名で、トラブルメーカーや人に食ってかかる人のことをリトと呼ぶそうです。そのため、自分でリトと名乗るシニカルな姿勢にはじめはちょっとびっくりしました。地域研究的な深堀ポイントは、リトのコスプレを誰が助けているのかということです。リトはコスプレに衣装やメイクや小道具を使っています。手作りの物があるにしても、揃えるにはお金がかかっているだろうと思います。誰がそれを助けているのでしょうか。コスプレメイトなのか、それとも家族でしょうか。この作品に家族はあまり登場しませんでしたが、リトの家族はどんな人たちなのでしょうか。そこから尋ねてみるとリトの別の面が見えてくるかもしれません。