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Visual Documentary Project 2019 上映・トークイベント開催レポート

Report / Visual Documentary Project 2019

テーマを通した話し合いから東南アジアを考え見直したい

マリオ・ロペズ准教授の写真
写真:佐藤 基

マリオ・ロペズ准教授は総評として、「今年「ジャスティス」という題材をなぜ選んだかですが、異なるテーマで募集しても、ほぼ毎年ジャスティスに関わる作品を受理しているからです。要するに東南アジアという地域の現状を表していると感じたため、どうしてもこの題材を避けられないということで、今回正面から引き出してみたいと思いました。入選作品以外にもたくさんの作品をいただき、いくつかを挙げると、他者の責任追及、社会内部の権力の流れ、暴力的な圧力の記憶、国家の暴力、個人同士の対立の記録、経済開発者との対立、拷問、レイプ、政治的迫害とそれに関わる人権侵害など、非常に重たいテーマとなっています。3年前にミャンマーから「鉱脈」という作品を受理したのですが、その作品を紹介くださったミンティンココジーさんは、去年ミャンマーの軍人をフェイスブック上で批判し現在刑務所に拘置されています。紹介する側と上映する側にとって作品を皆さんにみせることにはリスクがあり迷いもありましたが、今回素晴らしい作品を紹介できて嬉しく思います。このプロジェクトでは、できるだけ研究者と映画制作者とが交流ができ、テーマを通した話し合いから東南アジアを考え見直したいと思っています。なぜ今それをやるかと言いますと、日本では様々な番組やマスメディアを通して東南アジアを説明しているものはあると思いますが、日本を通して東南アジアをみるのではなく、彼ら当事者の見ている場所から、共に話し合うということが大きな狙いの一つとなっています。今日は皆さんが作品を観て受けた様々な印象や感想を持ち帰っていただければ幸いです。」と述べた。

トークセッションの様子の写真
写真:佐藤 基

上映会の後半では、本選考委員の一人で、日本映画大学教授/東京国際映画祭「アジアの未来」部門プログラミング・ディレクターの石坂健治氏と、山形国際ドキュメンタリー映画祭・東京事務局の若井真木子氏と各作品の監督と関係者が舞台に登壇し、二人の総評および監督関係者への質疑応答が行われた。

若井真木子氏の写真
写真:佐藤 基

若井氏は、「各作品の内容というよりは今回様々なタイプの作品があったことに言及します。インドネシアの監督はテレビ番組の制作ディレクターで、今回の作品はテレビ番組用に制作されました。ベトナムの監督は記者としてのバックグラウンドを持ちながら、ドキュメンタリーを制作しています。タイの監督は、この中で一番経験豊かで長く制作をされていると思いますが、今回は長編映画を短編用に短くまとめた作品でした。フィリピンの監督はマニラのフィリピン大学で映画を勉強し、本作は卒業制作として制作しました。また、ミャンマーの二人は人権団体や女性の権利などの活動家と一緒に議論しながら彼らなりのテーマを追求し、インディペンデントで制作しています。それぞれ監督の略歴をみると非常に面白く、また多種多様な作品でした。」と語った。

石坂健治氏の写真
写真:佐藤 基

石坂氏は、「今年は特にプロフェッショナル度というか、実際にプロで活躍されている方もいますが、作品として映像のクオリティが飛躍的にあがったという印象です。映画批評的な側面から触れますと、インドネシアでは1965年の虐殺を描く作品は色々とあり、最近だと『アクト・オブ・キリング』という映画では加害者側に過去の行為を演じさせるという一種の露悪的センセーショナルな制作方法をとっています。『私たちは歌で語る』はそれとは全く正反対で、虐殺の記憶を歌で語り継いでいく、また被害者側に寄り添っていく姿勢に感銘をうけました。『落ち着かない土地』にあるような都市のメガ開発については、幾つかの国が同じ状況になっています。東京国際映画祭でもカンボジア・プノンペンのメガ開発で搾取される若者たちを描いた『ダイアモンド・アイランド』が上映されたことがあり、そういった作品を想起させる映画でした。この作品も受難者に寄り添っている作品です。『叫ぶヤギ』は映像と音をあえてずらしてシンクロさせずにいる手法で、エイゼンシュテインの言うところの視覚と聴覚の対位法を使い、タイ南部のイメージを覆す挑戦的な作品でした。『あの夜』は被害者2名に焦点を当てながら、彼らの現政権に対する姿勢も描き、爆弾テロ、宗教、政治など、フィリピンは今麻薬戦争に関する映画が多いですが、それに一石を投じるような興味深い内容になっていました。『物言うポテト』は『私たちは歌で語る』と同じで、加害者は出てきません。ドキュメンタリーの中には加害者を突撃レポート的に追いかけるというやり方がありますが、正反対の手法で被害者側に寄り添う非常に力強い作品だったと思います。どの作品にも非常に感銘をうけたというのが感想です。」と述べた。

その後二人から監督関係者へ幾つかの質問が投げかけられた後、会場の質疑応答が行われた。観客から様々な質問が飛びかい、盛況のうちに上映会は終了した。

トークセッション登壇者の集合写真
写真:佐藤 基