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郷土芸能がもたらす未来への可能性 「三陸国際芸術祭&Sanriku-Asian Network Project」報告会レポート

Report / 三陸国際芸術祭&SAN Pro報告会

 

五輪文化プログラムで郷土芸能が果たす役割

報告会の様子の写真

2020年に開催が決まった東京オリンピックは、「復興五輪」をテーマに掲げています。東京における芸術文化の創造・発信を推進する「アーツカウンシル東京」の石綿祐子さんによれば、今年8月のリオデジャネイロ五輪で、東京や東北の祭りをアピールするために、東北の郷土芸能をリオに派遣する計画が進行しているそうです。

オリンピックは「スポーツの祭典」というイメージが強いものの、文化プログラムの実施はオリンピック憲章にも明記されています。東京都では2017年から4年間かけて文化プログラムを実施する計画です。

「この文化プログラムの中で、日本が抱える社会問題をどのように解決するかはひとつのテーマ。特に、私たちが対面する社会問題の中で、『震災』は非常に大きなものだと考えています。一瞬のうちに歴史や生活が消滅してしまうような不安定さにどう立ち向かっていくのか? それを文化によって示していこうと考えています。震災を通じてわかったのは、壊れてしまう物ではなく、人が人に伝えることしか次の世代に伝わっていけないということ。その意味で、音楽や踊りだけでなくその土地の生活までが含まれている郷土芸能に注目することは、文化プログラムにとっても必要なんです」

では、オリンピックに対して、サンフェスはどのような役割を果たしていくことができるのでしょうか?

実は、サンフェスでは復興の象徴として「文化プログラム開会式」を三陸で開催することを目指しています。しかし、より重要なのは「オリンピック後」であると佐東さん。その頭の中には大胆な構想が渦巻いているようです。

「20年以降、三陸に文化芸術特区をつくることで、三陸を文化芸術の発信の場にできればと考えています。現在、文化芸術は政治経済よりも弱い立場に置かれていますが、政治経済は次の世代まで持続していくものではありません。文化芸術は、地域をつなぎ、時代を超えるものであり、政治経済と同じレベルに置かれるべきなんです。その一つのモデルを作るために、何をすればいいのかを考えています」

そんな長期的展望のもと、サンフェスは今年、市街地での開催を計画しています。市街地の復興と密着しながら開催される芸術祭となっていくこと。また、地域の人々とダンスを作る「コミュニティダンス」に力を入れることで、より地元の人々の生活に密着すること。さらに、三陸だけでなく八戸などのサテライト会場での開催も構想されています。

「サンフェスが狙っていることは、郷土芸能と文化の繋がりを全国的にすることなんです。三陸だけが変わればいいというものではなく、三陸をモデルとしながら、全国的に郷土芸能の強さを見直すきっかけになれば理想ですね」

全国には、無数の郷土芸能が存在しています。三陸のように、郷土芸能と文化が連携を深めることは、どんな地域でも可能なことなのです。三陸から全国へとこの流れが波及していけば、日本の「文化」に対するイメージは大きく変わっていくことでしょう。

郷土芸能 金津流獅子躍大群舞の写真

オリンピック文化プログラムの開会式、文化芸術特区構想、文化芸術活動のポジションの向上、三陸から日本全国、そしてアジア各地への影響……と、サンフェス・サンプロはひとつの文化事業にとどまらず、人々の価値観を変えるような大きな未来を目指しています。いったい、今後、三陸からどのような変化が生まれてくるのか? そして、20年以降、三陸は文化の中心地へと発展していくのか? サンフェス・サンプロを紐解く報告会からは、郷土芸能の可能性だけでなく、これからの日本文化の指針までもが見えてきました。

 

 萩原雄太 演出家・劇作家・フリーライター。演劇カンパニー「かもめマシーン」主宰。「第13回AAF戯曲賞」「浅草キッド『本業』読書感想文コンクール」優秀賞を受賞。フリーライターとしては、CINRA.NET、月刊誌「サイゾー」などに寄稿する。