ASIA center | JAPAN FOUNDATION

国際交流基金アジアセンターは国の枠を超えて、
心と心がふれあう文化交流事業を行い、アジアの豊かな未来を創造します。

MENU

トラン・アン・ユン監督来日記念!特別上映会&トーク -アジアの未来、映画の行方- 開催レポート

トラン・アン・ユン監督の来日を記念して10月18日(木曜日)にアンスティチュ・フランセ東京で開催された上映会およびトークは、多くのトラン監督ファンにご来場いただき盛況のうちに幕を閉じました。

この日に上映されたのは、トラン監督長編デビュー作でカンヌ国際映画祭のカメラドールとユース賞をダブル受賞した『青いパパイヤの香り』(1993)と2016年公開の最新作『エタニティ 永遠の花たちへ』の2作品です。
第1部の上映作品『青いパパイヤの香り』は、1950年代のベトナム、サイゴン(現在のホーチミン)を舞台に、情景から香りが漂ってくるかのような穏やかで繊細な美しさをもつ映像作品です。第2部の作品『エタニティ永遠の花たちへ』は、19世紀末のフランスを舞台に運命に翻弄されながらも命を紡いでいく女性たちの人生を描いたドラマです。

会場には多くのトラン監督ファンが集まり、上映後に行われたトークではトラン監督と『青いパパイヤの香り』で主人公ムイを演じ、その後監督の妻となった女優のイェン・ケーさんが登場し、日本語で挨拶されると会場からは大きな歓声があがりました。今回で2回目、3回目の観賞というファンもおり、Q&Aセッションでは、映画好きならではの質問も飛び交いました。一つ一つの質問に丁寧に答えるトラン監督とイェン・ケーさんの誠実さと優しい人柄がとても印象的でした。

壇上の石坂氏、トラン夫妻の写真

第1部の『青いパパイヤの香り』上映後のトークでは、モデレーターの石坂さんより、「デビュー前のお話しを聞かせてください」という質問から、トラン監督は「最初は哲学を学んでいたが、どうも自分には向いておらず、映画を学び始めました。そこで短編を2作品作り、彼女(イェン・ケーさん)と出会い、その後、プロデューサーとなる人物にも出会うことになりました」とのお話しがありました。イェン・ケーさんからは、「監督は、短編映画を撮影するにあたり、フランスの演劇学校を訪問し、女優を探していました。私はまだ17歳でしたが、若い頃に母親役として起用され、その後、歳を経るごとに今度は、娘役など若い役をやることになりました。そこからずっと、仕事や生活を共にしています。」と、デビュー前の話が披露されました。

映画『青いパパイヤの香り』フライヤー画像
(C)1993 LES PRODUCTION LAZENNEC

『青いパパイヤの香り』
監督:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー/リュ・マン・サンほか
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
原題:L'odeur de la papaye verte/1993年/フランス、ベトナム合作/104分

1993年カンヌ国際映画祭カメラドール新人監督賞受賞
1994年セザール賞新人監督賞受賞
1994年アカデミー(R)外国語映画賞ノミネート

壇上のトラン夫妻の写真

ベトナム3部作の中で、最も印象的な作品とは?

続けて、イェン・ケーさんに向けての質問「ベトナム3部作の全てに出演されていますが、その中でも印象的なのは、どの作品ですか?」に対し、「私にとって、そのご質問に答えるのは難しいですが、敢えてあげるなら映画『シクロ』だと思います。共演者のトニー・レオンさんは個性的な俳優さんでした。また撮影チームの平均年齢は24歳ぐらいでしょうか。プロデューサーも含め、皆、若かったです。若さ無しには完成しなかったのが『シクロ』という作品だったと思います。また、私は1歳の頃からフランスに住み、祖国ベトナムを知らなかったのですが、トラン監督の作品に携わることで、自分のルーツやアイデンティティを見直すきっかけになっています」と打ち明けてくれました。

第2部の『エタニティ 永遠の花たちへ』上映後のトークでは、左記作品での色彩や音楽を含めた音、メイク、俳優の着ている衣装などの美術面では、イェン・ケーさんが取り仕切られた部分も大きかったとの話しもあり、女優やナレーションだけでなく、映画のヴィジュアルに関する仕事に携わる一面も明かされました。

映画『エタニティ 永遠の花たちへ』フライヤー画像
(C) Nord-Ouest

『エタニティ 永遠の花たちへ』
監督:トラン・アン・ユン
出演:オドレイ・トトゥ/メラニー・ロラン/ベレニス・ベジョほか
配給:キノフィルムズ
原題:Éternité/2016年/フランス=ベルギー合作/115分

近年、ベトナムにて若手映画製作者を育てるワークショップにも力を注いでいるというお二人について、お聞きすると……

トラン監督夫妻は、近年、祖国のベトナム中部で毎年1週間ほど若い方にむけて映画ワークショップを開いており、日本・韓国・シンガポール・台湾・マレーシアのアジアの国・地域から参加者が集まってくるそうです。トラン監督からは、「ワークショップでは技術的なことを教えるのではなく、若い参加者と共に仕事をし、映画言語とは何かを皆で考え定義しようというのが大きな目的です。観てくれる人に感情を伝えるのが映画言語だと思うので、映画作りのキーポイントとなる言語(シネマ・ランゲージ)を勉強するワークショップです」と話され、アジアの若手育成にかける情熱が感じられました。

イェン・ケーさんは、5つの講座のうち、アーティスティック・ディレクター向けの講座を開いており、映画にまつわるヴィジュアル表現(コスチュームや映画セット、内部のしつらえ、ヘア&メイクキャップ・色味など)を受け持ち、「私の経験に基づき、若い方向けにお話ししています。そして、映画というのは、やはりイメージが重要ですので、どんな生地を使うのか、その質感や色味は作品世界とあっているのか、俳優さんの肌にあうか、または汗をどう隠せるのかなど、観客にむけて感情や情感を表現する的確な量のイメージを表現することが大切だと私は感じています」と締めくくられました。

モデレーターの石坂さんからは、「今、1番世界で上映されているベトナム映画は、トラン監督のワークショップに参加した若いベトナム出身の女性監督が作った映画です」と、近年の映画界の動きが告げられました。既に、活躍する卒業生も出始めているそうです。ベトナムからトラン監督に続く若手映画監督が台頭する日も近いかもしれません。

会場からは、トラン監督に対し、映画制作でのシーンの繋ぎ方、音の使い方、色、俳優への演出方法、画面作りなど専門的な質問が次々に投げかけられ、それらひとつひとつの質問にトラン監督も「素晴らしい質問をありがとう」と丁寧に応えており、会場中が耳をかたむけた時間となりました。まさに、密度の濃いこれらの対話こそが監督の言う「シネマ・ランゲージ」であり「映像学の神髄」だと感じました。

トラン監督とイェン・ケーさんをお迎えし、会場は始終多くの拍手と笑顔に包まれ大盛況となりました。

上映会を終え、関係者と談笑するトラン夫妻の写真

上映会詳細

ゲスト:トラン・アン・ユン(映画監督)、トラン・ヌー・イェン・ケー(女優)
モデレーター:石坂健治(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
通訳:藤田和子
写真:佐藤基
主催:国際交流基金アジアセンター
協力:アンスティチュ・フランセ東京
後援:フランス大使館